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がん病巣にのみ集中照射できる局所進行がんにメリット大の重粒子線治療

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 QST病院

2020/12/21

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ながらく先進医療のイメージがあった「重粒子線治療」ですが、徐々に保険適用が進み、身近な治療法になりつつあります。その仕組みと特徴、そして適応となっている疾患について、QST病院の辻比呂志病院長に伺いました。

一般の放射線が効きにくいがんにも効果が見込める

病院長
辻 比呂志 つじ・ひろし

1982年北海道大学医学部卒業。1995年筑波大学臨床医学系講師。2019年QST病院病院長。日本医学放射線学会放射線治療専門医。【専門】前立腺がん、眼球悪性黒色腫、涙腺がん

 X線を代表とする放射線治療は外科手術や化学療法と並ぶ、がんの標準治療ですが、「重粒子線治療」も放射線治療の一種です。違いは、X線治療が質量を持たない光子線を用いるのに対し、重粒子線治療では質量を持つイオンを超高速に加速して用いる点にあります。

 X線との大きな違いは、周辺組織への影響です。X線では照射した時に体表面で最も線量が高く、病巣を突き抜けるので、周辺の正常な組織にも放射線が当たりダメージを与えます。そのため、治療として十分な線量を病巣に当てられないケースがありました。一方、重粒子線は病巣の深さに合わせて止めることができ、そこで最大エネルギーを放出させるため、体表面を含む、周辺の正常組織への影響が少なくて済みます。病巣に集中して放射線を作用させ、治療に十分な線量を当てられるため、X線治療では治癒が困難だった大きさの進行がんでも治せるようになってきているのです。

 X線でも最近は、サイバーナイフなどの技術により集中性を高めた治療が出てきていますが、重粒子線治療では多くの場合に、より集中性の高い治療ができるといえます。X線では集中性の高い治療を行った場合でも、やはり周辺組織にはある程度の放射線が当たるため、元の病巣近くに再発した際に再度広く照射するのは躊躇われるケースがあります。その場合も重粒子線であれば、もともとが限局して当てられるため、再発病巣に対しても初回と同様の治療が行えます。これは、同じ臓器内での再発が頻回あり得る肺がんや肝がんなどに対して、大きなメリットです。

 また、重粒子線は生物学的な効果も高いので、局所であればかなり進行したがんでも、高い効果が期待できます。一方、肺がんや食道がんでリンパ節に転移がある場合にX線治療と化学療法を組み合わせることがあるのと同様に、転移対策としては重粒子線に化学療法を併用することもあります。むしろ、正常組織へのダメージの点では、X線より併用しやすく効果的に治療が可能。つまり、進行がんにおいて重粒子線治療は、よりそのメリットを発揮するといえます。

回転ガントリー治療室/脊髄や重要臓器を避けて最適な角度からの照射を可能にし、患者の身体的な負担を軽減
回転ガントリー治療室/脊髄や重要臓器を避けて最適な角度からの照射を可能にし、患者の身体的な負担を軽減

X線より治療期間が短く通院治療も可能

 改めて重粒子線治療の利点を整理すると、まず、X線や陽子線に抵抗を示す、骨・軟部腫瘍や腺がん系腫瘍などの難治がんに対して有効で、多くの治療実績を上げている点があります。また、正常組織のダメージを少なく、1回あたりの照射線量を大きくすることができるため、重粒子線治療では照射回数を減らし、治療期間の短縮が可能。たとえば初期の肺がんや肝がんは1~4回、前立腺がんや膵がんは3週間・12回の照射で、通院治療もできます。

 そのほか、最近の研究から分かってきた利点として、放射線治療や化学療法の後にある程度増加するといわれる2次がんリスクについて、前立腺がんにおいて重粒子線治療後の発生率がX線よりも低いという報告がされています。また、放射線治療は腫瘍細胞から特異な抗原を放出させて免疫機能を活性化するといわれますが、なかでも重粒子線治療ではより有利に働くという報告が、複数なされています。

 一方でデメリットといえるのは、当初2000年代に先進医療として少しずつ認められてきたことによる、高額なイメージでしょう。ですが重粒子線治療は2016年から徐々に骨・軟部腫瘍、前立腺がん、頭頸部がん(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)が健康保険の適用となっており、今後も適用拡大が期待されています。高額療養費制度と組み合わせれば、治療期間が比較的短いこともあり、身近な治療法となりつつあるのです。

 また、重粒子治療の装置は大型で、治療施設が限られる面があります。サッカー場規模から最小でもその1/3のスペースが必要なため、現在国内に重粒子線治療施設は7件のみ。そこで現在、量子科学技術研究開発機構では設備の小型化をめざして『量子メスプロジェクト』に取り組んでいます。高強度レーザー技術と超伝導技術により小型化を進めるもので、数年後に10m×20m大の実現が目標です。これが叶えば、既存の病院建物内に設置可能となり、重粒子治療の普及が一気に進むでしょう。さらに身近な治療法となる日が近づいています。

新治療研究棟/次世代の照射システムを備え、環境への配慮や優れたデザイン性から、2011年度グッドデザイン賞金賞を受賞
新治療研究棟/次世代の照射システムを備え、環境への配慮や優れたデザイン性から、2011年度グッドデザイン賞金賞を受賞

【History】QST病院とは…

 重粒子線がん治療のトップランナーとして1万3000人以上の患者を治療してきた当院は、1961年に放射線医学総合研究所(放医研)病院部として創設。世界で初めて、医療を目的とした重粒子線加速器を開発し、1994年に臨床試験を開始しました。以来、より良い治療や装置の小型化を実現するための研究開発に専心。今では、がん病巣を細いビームで塗りつぶすように重粒子線を照射する「スキャニング照射システム」や、360度任意の角度から重粒子線を照射する「回転ガントリー」といった最先端装置を備えています。2019年4月に現在名となり、経験豊富な医師、医学物理士、放射線技師、看護師らがチームで、全国や海外から訪れる患者をサポートしています。

QST病院/放医研病院を前身とし、研究病院として臨床研究も推進
QST病院/放医研病院を前身とし、研究病院として臨床研究も推進

INFORMATION

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 QST病院
千葉県千葉市稲毛区穴川4-9-1
電話 043・206・3306(代表)
https://www.nirs.qst.go.jp/hospital/

アクセス
■JR総武線稲毛駅(総武線快速・各駅停車)◎JR稲毛駅東口より徒歩15分、◎JR稲毛駅東口バスターミナル(2番乗り場)よりバス乗車⇒放医研正門下車(山王町行、 千葉センター行、ザ・クイーンズガーデン稲毛行)
■京葉道路:穴川インターより10分(注意:稲毛区役所付近で側道へ)
■東関東自動車道:宮野木ジャンクション → 京葉道路・穴川インターへ