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特集文春マルシェ

明石鯛の漁師漬けを楽しみながら、向田邦子に思いを馳せる

文春マルシェ「美味随筆」〜お取り寄せの愉しみ#9 明石鯛の漁師漬け〜

2020/12/11

 食は人の営みを支えるものであり、文化であり、そして何よりも歓びに満ちたものです。そこで食の達人に、「お取り寄せ」をテーマに、その愉しみや商品との出会いについて、綴っていただきました。第9回は作家の酒井順子さんです。

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 食べることが大好きだった、向田邦子。料理本も出ているほどの料理上手であるだけでなく、各地の美味しいものにも詳しい“お取り寄せ好き”でもありました。

 向田エッセイに登場した、九州の練り梅のようなものが美味しそうだったので、「今でもあるのかしらん」とググってみたところ、見事にヒットしたので、早速お取り寄せ。向田邦子と同じものを食べているのかと思うと、何だか嬉しいものです。

 ネットもなく、宅配便も発達していなかった向田邦子の時代と比べると、今やお取り寄せはぐっと手軽にできるようになりました。食品加工の技術も進み、「こんなものもお取り寄せできるの!」と驚くこともしばしば。

向田邦子さん ©文藝春秋

 特にコロナ時代となって、私もずいぶんお取り寄せに助けられたものです。スーパーに行くのがためらわれた頃は、取り憑かれたように各地の食材をお取り寄せ。昼から天婦羅を揚げたりしていましたっけ。

 しかし、そんなテンションは長続きしませんでした。昼から天婦羅を揚げていたのは明らかに“非常事態ハイ”だったからであり、取り寄せるものも「手間をかけずに食べられるもの」に移行していったのです。

 そんな中、ご近所の70代女性と話をしていると、

「私、ネットでのお取り寄せって、やり方がわからないのよ」

 とおっしゃいます。スマホは持っているけれど、電話とLINE程度で、ネット機能はあまり使用していないというのです。

 確かにネットに対する親しみが薄い世代は、お取り寄せ率も低いのかもしれません。そこで、ネットでのお取り寄せの楽しさや便利さを切々と語ってみたところ、次に会った時にそのご婦人は、

「娘にやり方を聞いて、初めてネットでお取り寄せをしてみたの! 最初は、私の物分かりが悪くて娘にイラつかれたけど、やり方を覚えてみたらすごく楽しいわね。はい、これおすそ分け。昔、旅行に行った時に食べた京都のお菓子を取り寄せたのよ~」

 と、おっしゃるではありませんか。