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「生きてさえいてくれれば、その後はある」 NSC講師が見た“芸人にならなかった教え子たち”

2020/12/17

source : 文藝出版局

genre : ライフ, 芸能, 読書, ライフスタイル

 吉本総合芸能学院(NSC)東京校の講師として、EXITなど6000人以上の生徒を育て上げた桝本壮志氏が青春群像小説、『三人』を書き下ろした。新型コロナウイルス発生前まで、スピードワゴンの小沢一敬氏、チュートリアルの徳井義実氏と同居していた桝本氏。今までの経験をモチーフに、芸能の世界や、芸人の浮き沈みを描いた力作である『三人』の刊行にあたり、桝本氏がエッセイを寄稿した。

◆◆◆

「中学のころは相方にいじめられていたんです」

 北上する新幹線やまびこの車内で彼はぽつりぽつりと語りはじめた。芸人養成所の元教え子と二人旅。目指すは彼の元相方が待つ場所。

「最後の言葉は、満面の笑みで言った『じゃあな!』でした……」

 そして彼は一枚の写真を見せた。

 

 亡き相方の祭壇の前でおどける、一見、不謹慎にも思える写真。しかしそこには最期まで芸人として送ってやりたい故人への想いと、最期までおもしろい相方でありたい残された人間の、痛いまでの芸人根性とコンビ愛があった。

 沈黙と田園風景が流れていく――。

 やがて僕の頭の中で、10年間の講師生活がまわりだした。

教えるはずが、教えられた10年だった

 EXIT、3時のヒロイン、ぼる塾ら『お笑い第七世代』、M-1グランプリ決勝進出コンビやNHK新人お笑い大賞コンビ、元教え子たちの現在の姿はまばゆい。その光が濃くなるほど、彼らの陰にいる約5700人。

三人

 売れるためにもがき続けている教え子、そして芸人学校を出たのに『芸人にならなかった教え子たち』の輪郭が濃くなっていく。なぜなら、僕もその一人だったからだ。

 芸人を廃業し放送作家に転身した僕は、離婚を機に精神が荒んだ。わびしさの隙間を埋めようと仕事を詰め込んだが、どうしても埋まらない隙間に酒が沁み込んだ。笑いを目指した人間が誰にも笑ってもらえない人間になっていった。「母校の講師をやらないか?」との誘いがきたのはそんな時期だった。