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2020/12/17

source : 文藝出版局

genre : ライフ, 芸能, 読書, ライフスタイル

 Sくんのご実家で遺影に手を合わせる。その手の先を、まるで子供を演じているみたいにリビングを元気に駆け回るS家の愛犬が舐めてくる。

 家の外で出迎えてくださったお母さん、何度も「駅まで送っていこうか」と気づかってくださったお父さんの笑顔が、いつまでも冬の空に貼りついた。

今からでもアイツをおもしろいヤツにしたい

「寄りたい所があるんです」

 帰り道、大谷くんは国道脇の小さな休憩所に誘った。

「昔からここで、アイツとネタを作ったんです」

 パチンコ台やコンドームの自販機が並ぶ空間。

 彼らの学生時代、青春の匂いが香った。

 

 しばらくの間、Sくんが座っていた空席をなつかしんでいた彼は、やがて語気を強めた。

「コラムにしてくれませんか?」

 先ほどとはまるで違う目。その奥の光は強かった。

「アイツという芸人がいたことを少しでも多くの人に知ってもらいたいんです」

 そして大谷くんは続けた。

「アイツが最後に食べたメシは、ライブ中に食った激辛シュークリームだったんです。それっておもしろいでしょ? でも、アイツの死に方はおもしろくない。

 だから僕は、今からでもアイツをおもしろいヤツにしたいんです」

「今から……?」

「例えば、青森に行って、イタコさんにアイツを降霊してもらって、アイツと漫才やるんです。そしたら最期はおもしろいでしょ? 桝本さんも一緒に行きましょうよ!」

 

 大谷くんもまた、僕の想像を上回る芸人さんになってくれていた。アイツの前でオレは最期までおもしろくいる。だからお前も最期はおもしろくあれ――。

 さっき見た、祭壇の前でおどける大谷くんの写真の真意が分かったような気がした。

 東京駅で大谷くんが手を振る。その顔は春のように穏やかだった。今度、ここへ二人で来るときは青森行きの切符を買うときだろう。そんな思案をしながらタクシーに揺られているとLINEが届く。

『イタコさんに問い合わせしたら予約とれそうです!』

「早っ!」

 やっぱり芸人さんはおもしろい。僕はずっと彼らのファンなのだろう。売れても、売れなくても。芸人じゃなかったとしても。

三人

桝本 壮志

文藝春秋

2020年12月17日 発売

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