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いまそこにある差別……なぜ父は「在日コリアン」であることを家族に話さなかったのだろう

2021年の論点100

2021/02/16

「日本で生まれ育った日本人からすると人種差別っていまいちピンと来ないかもしれないけど……」。

 アメリカ、ミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察官に膝で首を押さえ付けられ、その後亡くなった事件を発端に、「Black Lives Matter」のスローガンと共に抗議デモが各地に広がった。

 そんな最中に著名な歌手の方がSNSに投稿したこの言葉が、物議を醸した。彼女の書き込みの趣旨は、アメリカで今何が起きているのかを伝えるもので、もちろん大切なことだと思う。

 ただ同時に、違和感も抱いた。アメリカとは社会背景が異なるものの、果たして生まれの違いによる「差別」の問題は、遠い海の向こうの問題だろうか。

スポーツ、社会、政治、多くのものを巻き込んだBLM運動 ©AFLO

在日コリアンであることを知らずに育った

 日本にも様々なルーツを持った人々が暮らしている。私の父や祖父母も、在日コリアンだ。けれども私が中学2年生の時に父が亡くなるまで、そのことを一切知らずに育ってきた。父は母にさえ、自分の出自について殆ど話したがらなかった。なぜ、自分のルーツを家族に話さなかったのだろうか。私は父の戸籍や、わずかに残された書類の情報を元に、2020年9月、父の生家があったらしい京都市伏見区を訪ねた。

 鴨川からほど近い父の生家跡地は、駐車場となってアスファルトに覆われ、その面影は殆ど残されていなかった。川向にはかつて、京都朝鮮第一初級学校があった。学校は2012年に移転してしまったため、跡地にはビジネスホテルが建っている。

 2009年12月4日から、在特会と呼ばれる集団が3回にわたり、この京都朝鮮第一初級学校の周辺でヘイトスピーチを繰り返した。学校関係者や在日コリアンが、生きるに値しない人々であるかのような言葉を拡声器で浴びせ続けたのだ。子どもたちにとっては、命の危険を感じる経験だっただろう。事件後、当時この学校に子どもを通わせていたという親御さんの一人は、「朝鮮人って悪いことなの?」と、子どもに尋ねられたという。