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2020/12/18

 美術設定とは、作中の舞台となるロケーションがどんな場所かを描く役職。この設定を参考に、美術スタッフなどが実際の画面に映る背景を描くのである。美術設定には、実際の風景をよく見ている観察力と、監督の演出意図を理解して舞台を構成する力の2つが求められる。またレイアウトは、実写でいうところのカメラマンに相当する役職で、監督の狙いに沿って、そのカットでは、登場人物や風景がどのように見えるかを決めていく。こちらも演出の知識と、空間を正確に描くことができる画力が必要とされる。

 今 敏は映画の知識も豊富で、かつ画力もあったため、こうした役職はまさに適任であった。

『老人Z』販売元:SME・ビジュアルワークス

押井守、大友克洋監督たちとともに

 特にレイアウトは映像のクオリティを左右する重要なポジションのため、今 敏はこの後、『走れメロス』(1992、おおすみ正秋監督)、『機動警察パトレイバー 2 the Movie』(1993、押井守監督)にもレイアウトとして関わり、作品のクオリティの底上げに貢献した。

 一方1992年ごろからオムニバスアニメ映画『MEMORIES』(1995、総監督・大友克洋)の「彼女の想いで」(森本晃司監督)に関わり、こちらでは設定だけでなく、脚本も担当している。

 同作は宇宙飛行士たちが巨大な難破船の中で、1世紀前のオペラ歌手エヴァの住まいを発見するところから始まる宇宙SFだ。不遇の後半生を送ったエヴァは、難破船の中に彼女の美しい思い出だけの世界を作り、そこで暮らしていたのだ。

 エヴァの「思い出」に飲み込まれそうになる宇宙飛行士ハインツたち。その過程でハインツは、自分自身の辛い過去との対峙を強いられることになる。

『機動警察パトレイバー2 the Movie』販売元:バンダイビジュアル

 今 敏は大友克洋の短編の骨格を生かしつつ、そこに「思い出(虚構)」と「現在(現実)」という対比を持ち込んで映像的な見せ場を作り上げた。本作で取り入れられた「虚構と現実の混淆」という主題はその後、自身の監督作の中で本格的に追求され、今 敏作品を象徴するキーワードとなる。

 またこの時期は脚本を手掛けただけでなく、オリジナルビデオアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』(北久保弘之監督)の中の1本(「DIOの世界 花京院 結界の死闘」)では脚本に加え絵コンテ・演出まで手掛けている。

「現実の不安定感」を描いたデビュー作

 こうしてアニメ業界でのキャリアを着実に積んできた今 敏に初監督のチャンスが訪れた。それが『PERFECT BLUE』(1997)である。『PERFECT BLUE』から遺作となった短編『オハヨウ』(2007)までの各作品の中で、今 敏監督は様々なアプローチで「虚構と現実」の関係を描いている。