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2020/12/18

『妄想代理人』は正体不明の通り魔「少年バット」を巡る物語。精神的な悩みを抱えていたり追い詰められた者の前に現れるという「少年バット」は、『PERFECT BLUE』で未麻の前に現れた“アイドルの自分”の直系の存在といえるし、それが一人の女性キャラクターと深い因縁があるらしいという設定は『千年女優』に通じるようでもある。皮肉なブラックユーモアに満ちた本作は、今 敏監督のフィルモグラフィーの中でもひときわインパクトの強い一作といえる。

「総決算」の最後の長編作品

 最後の長編である『パプリカ』は、筒井康隆の同名小説が原作。夢探偵パプリカが夢の中に入って事件を追うという原作の設定を踏襲しつつ、ストーリーは大胆に脚色されている。物語は、夢の中に入ることを可能にする装置DCミニが何者かに盗まれ、悪夢で人の精神を崩壊させる事件が起きるところから始まる。パプリカたちは果たして犯人を捕まえられるのか。

 本作はそれまでの今 敏作品の「総決算」といった趣きの作品で、それまで培った演出テクニックがまとめて投入されたエンターテインメント作だ。主人公パプリカの造形をはじめ、今 敏作品の中では一番、キャラクター性が前面に出た“アニメっぽい”作品でもある。

『パプリカ』販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

 今 敏監督はこの後、寝起きの女性の様子をスケッチした1分間の短編『オハヨウ』(2007)を経て、次の長編『夢みる機械』の準備に入る。だが、その制作途中で病に倒れてしまった。「3台のロボットの冒険を描く子ども向け映画」という『夢みる機械』が果たしてどのような映画として完成したのか。今となってはそれを知ることはできない。

『夢みる機械』というタイトルは、今 敏監督が敬愛し、『千年女優』『妄想代理人』『パプリカ』でもコンビを組んだミュージシャン・平沢進の曲からとられたもの。今 敏監督の葬儀で出棺の時流れたのも『千年女優』の主題歌で平沢進の「ロタティオン(LOTUS-2)」だった。

 残された作品は決して多くないが今 敏監督が描いた世界は実に広く示唆に富んでいる。それは没後10年が経過した今でも、まったく古びていない。

今 敏(こん・さとし)
1963年北海道生まれ。漫画家としてデビュー後、大友克洋のアシスタントになり、その後アニメ制作に専念する。97年『PERFECT BLUE』で初監督を務め、その後の作品も多くの映画祭で受賞するなど高い評価を受ける。2010年、病いにより逝去。

藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年静岡県生まれ。新聞記者、週刊誌編集者を経て、評論家活動に。著書に『アニメ「評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ──ゼロ年代アニメ時評』(NTT出版)、『ぼくらがアニメを見る理由──2010年代アニメ時評』(フィルムアート社)などがある。東京工芸大学非常勤講師。

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