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連載名画レントゲン

縦長の「大画面」をダイナミックにみせる「三角形」構図の魔法

ピエール・ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ『幻想』(1866年)

2020/12/23

 ピュヴィ・ド・シャヴァンヌは今ではそれほど有名ではないですが、19世紀後半のフランスで活躍した大壁画家で、パンテオンやパリ市庁舎などの壁画も手掛け、ゴーギャンやピカソにも影響を与えました。

 白黒写真で見ても分かる通り、明暗のコントラストが弱く、全体に淡いトーンに簡潔な線で描いた形がシャヴァンヌの特徴。これはルネサンス時代の静的な画面作りで知られるピエロ・デッラ・フランチェスカらのフレスコ画の影響だと言われています。

 さて、このたび大原美術館へ足を運び、実物を改めて見てきました。「幻想」は本館に入って最初に出会う絵。

 右下には花輪を持ちながら花を摘む少年、その左上には裸体の女性が蔓状のものを手にして、右上で羽ばたくペガサスの首に巻き付けようとしています。ちょうど三角形を構成していて、その形に添って縦長の画面を下から上へとスムーズに巡ることができます。この絵はタテが263.5センチととても大きいため、目の前に立つと、この下から上へと誘われる流れの効果をより実感できます。

絵画名:幻想/画家名:ピエール・ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ/制作年代:1866年/画材:油彩・カンヴァス/大原美術館所蔵

 縦長の画面は、左右の外側にするっと視線が流れて出てしまわないことが大事。左側では女性が左腕をまげて顔を画面内側に、右側ではペガサスが前脚をまげて顔を画面中央に向けています。左上の木々が、右側のほうにかしいでいるのもペガサスの方を見てね、と言っているよう。

三角形のなかに主要な要素が納まっている

 ペガサスは神話の生き物で、見たものを石に変えるメデューサの血から生まれ、純潔や芸術家の霊感を表しているとされました。シャヴァンヌは象徴派という、客観的な現実を見たまま描こうとするのではなく、むしろ内面の主観的なイメージに形を与えようとする流派に数えられます。モロー、ルドンなども名を連ねますが、想像上の生き物であるペガサスは彼らが好んだ主題の一つ。

 現在でこそ再評価される象徴派ですが、長らく同時代に活躍した印象派の陰に隠れた傍系の扱いを受けていました。

 この絵は画面下部の四角い枠の中に『LA FANTASIE(幻想)』とあるように、芸術創造の概念を画家が主観的に表したもので、人物像もリアルな人というより、寓意的な意味あいが強いもの。下描きの線がところどころ透けて見えるあたりに、幻想が形を得る過程の揺らぎも感じられます。

 内容に関する解釈も一つに帰結するものでなく、見る人が各自の想像力で味わう余地があります。現代の私たちが自然に受け入れているこのような絵のあり方を「当たり前」にしたのが、シャヴァンヌに代表される象徴派の芸術家たちであり、その点でも見直されています。

 もとは画家の友人クロード・ヴィニョンの邸宅の装飾用に描かれた4枚のうちの1枚。ヴィニョン氏の気分で室内にあるのを想像してみましょう。右上の遠景の森、その奥にそびえる山、そして空へと続くさまは部屋を広々と感じさせたと思われます。

INFORMATION

大原美術館(常設展)
https://www.ohara.or.jp/

●美術館の開催予定等は変更になる場合があります。ご来館前にHPなどでご確認ください。

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