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M-1予選で爆笑をさらったアインシュタインはなぜ落選したのか《審査員が鼻につく「設定」とは?》

2020/12/20
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 変わる瞬間を見られるかもしれない。M-1の準々決勝で、そう大いなる期待を寄せていたコンビがいる。昨年から人気急上昇中のアインシュタインだ。

アインシュタインの稲田直樹(左)と河井ゆずる M-1グランプリYouTubeチャンネルより

 今年の2回戦は動画配信される予定だった。そのため、続く準々決勝以降、2回戦と同じネタをかけると、すでに動画でネタを観ている客に「またあのネタか……」と飽きられる可能性がある。そうならないよう各組とも、本当に自信のあるネタは準々決勝以降に温存する傾向にあった。

 2回戦のアインシュタインは新鮮だった。というのも、彼らと言えば、昨年の「よしもと男前ブサイクランキング」のブサイク部門でぶっちぎりの1位に選ばれたボケの稲田直樹のブサイクキャラが最大のセールスポイント。ネタも当然、そこをからめたものが大半だ。

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 ところが2回戦のネタは、稲田の容姿をまったくイジらないものだった。無事2回戦を通過して、最初の勝負となる準々決勝で、2人はどんな温存ネタを見せてくれるのだろうと期待が高まった。だが準々決勝は一転、稲田のブサイクキャラ全開のネタだった。会場はどっかんどっかんウケていた。客は彼らの十八番を待っていたのだ。

アインシュタインのYouTubeシュタインより

 しかし、アインシュタインはその準々決勝で落ちた。あれだけの技術を見せ、あれだけウケていたというのに。

「ウケればOK」とは限らない

 ただ、客は喜んでいても、審査員は倦んでいたのかもしれない。以前、2008年のM-1王者、NON STYLEの石田明がこんな風に語っていたことがある。

「アインシュタインは、僕らがめちゃめちゃウケてて、準決勝で敗退していた頃と、すっげー似てるんですよ。結局は、稲田がウケやすい設定でしかやってない。僕らも優勝する前は、イキったキャラの(相方の)井上(裕介)がウケやすいシチュエーションばかりを考えていた。

 でも、自分たちから離れた方がおもしろいんです。俳句って季語から遠い発想が入っているとおもしろくなる。大喜利もお題から遠ければ遠いほどおもしろい。僕らが新しい漫才に取り組んで初めて決勝に進んだ時、ウケだけで言えば、それまでの『イキり漫才』の方がウケていたと思うんです。ただ、ウケやすい、近道の漫才ばかりやっていた。なので審査員は鼻についていたかもしれませんね」

河井ゆずる公式インスタグラムより

 石田がそんな風に話していたものだから、2回戦を見たとき、アインシュタインもついに「ブサイク漫才」を捨てる決意をしたのかと思った。若く、才能あるコンビが、ついに新しいスタイルを探す大航海に漕ぎ出したのだと興奮した。

 しかし、実際は、まったくの見当違いだったようだ。