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なぜ“写真の会社”富士フイルムは「コロナワクチン」の製造受託でも圧倒的に強いのか――文藝春秋特選記事

なぜ“写真の会社”富士フイルムは「コロナワクチン」の製造受託でも圧倒的に強いのか――文藝春秋特選記事

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「文藝春秋」12月号の特選記事を公開します。(初公開:2020年11月29日)

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 新型コロナウイルスの世界的な流行の中で、かつて“写真の会社”だった富士フイルムホールディングスが、“ヘルスケアの会社”として存在感を増している。

「予防」の要となる、新型コロナウイルスのワクチンでは、米ノババックス社が開発を進めるワクチンの原薬製造をアメリカやイギリスの子会社で受託。「診断」領域では、PCR検査の時間を短縮する試薬や肺炎を診断するX線診断装置などを医療現場に数多く供給する。「治療」領域においては、抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」が、新型コロナウイルス感染症の治療薬として注目されている。

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累計1500億円以上の設備投資を決定

 ヘルスケア領域の中でも、近年特に力を入れているのが、新型コロナウイルスのワクチンや遺伝子治療薬などのバイオ医薬品の開発製造受託(CDMO)だ。約5000億円の売上を誇るヘルスケア部門を、2020年代半ばに1兆円にすることを目指す富士フイルムにとって、バイオCDMO事業は重要な柱の一つとなっている。

「第二の創業」を掲げ、積極的なM&Aを行って富士フイルムを「トータルヘルスケアカンパニー」に蘇らせた古森重隆会長(81)が、月刊「文藝春秋」12月号におけるインタビューでバイオCDMO事業への期待を語った。

古森重隆氏(富士フイルムHD会長)

「バイオ医薬品の原薬製造には、最先端の製造設備や高度な生産技術が求められます。実はこれは、均一で高品質な写真フィルムの製造・品質管理をやってきた我々が得意とする分野なのです」

 富士フイルムは2011年に米メルク社の子会社(現フジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ。以下、FDB)を買収し、バイオCDMO市場に参入を果たした。参入後、この分野に関連するM&Aに加え、累計1500億円以上の設備投資を決定するなど大規模な投資を続けている。

副作用が少ない医薬品

「CDMO事業はいいビジネスに育ってきたと思います。

 バイオ医薬品は、化学合成された医薬品とは異なり、タンパク質を有効成分とし、難病に対する治療効果が高く、副作用が少ない医薬品です。

 製薬会社では、製造プロセスの開発や商用の医薬品の製造を他社に委託するケースが増えています。当社のバイオCDMO事業は、市場成長率(年率10%)を大きく上回る実績を上げています」(同前)

コロナ治療薬として承認申請中の「アビガン」 ©共同通信社

 アメリカではトランプ大統領が主導した新型コロナワクチン開発計画「オペレーション・ワープ・スピード」の一環として、ワクチン原薬の大量生産ニーズに対応するため、子会社のFDBがテキサス州にある拠点の一部の製造キャパシティーをアメリカ政府のために確保している。イギリスでも、政府が調達する最大6000万回分の原薬を2021年初めから生産する予定だ。

 バイオCDMO事業における製造受託はワクチンだけではない。