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なぜ彼女はよみがえったのか 『風の谷のナウシカ』にあった幻の3つのラストシーンとは

2020/12/25
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 1984年に公開された映画『風の谷のナウシカ』。大地を覆った「腐海」や巨大な王蟲(オーム)など印象的な世界が描かれ、長年に渡って愛されている。その中でも記憶に残るのがラストシーン。このラストシーンに隠された秘密を、アニメ評論家の藤津亮太氏が紐解いた。※本記事では映画のラストシーンに触れています。

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 映画『風の谷のナウシカ』のラストシーンについて、宮崎駿監督は公開当時に次のように語っている。「ラストでナウシカがよみがえるところ、あの場面にいまでもこだわっていまして、まだ終わった感じがしないんです」(※1)。宮崎監督は、あの“感動的”なクライマックスにどうしてこだわりを感じていたのか。そもそも映画『ナウシカ』のラストシーンはどうして成立したものなのか。

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(ジブリHPより)

宮崎駿の転機になった『ナウシカ』

『風の谷のナウシカ』は1984年公開。1982年からアニメ雑誌「アニメージュ」で、宮崎自身が連載していた同名漫画のアニメ化だ。当時連載されていた2巻途中までのエピソードを使って1つの映画にまとめている。

「腐海」に覆われマスクが日常となった世界(ジブリHPより)
印象的な「王蟲」(ジブリHPより)

 舞台は、文明の崩壊から1000年が経過し、巨大化した菌類による「腐海」が大地を覆った世界。腐海には王蟲をはじめとする巨大な虫が生息していた。軍事国家トルメキアが工房都市国家ペジテを侵攻し、腐海のほとりの小国・風の谷の族長の娘ナウシカはその戦争に巻き込まれることになる。

『風の谷のナウシカ』ブルーレイ

『ナウシカ』のヒットはさまざまな転機となった。まず同作のヒットがあったからこそ、翌1985年にはスタジオジブリが設立される。またスタジオジブリが1990年代に躍進していく過程で欠かせないパートナーとなる日本テレビとの関係も、同社がTV放送のために『ナウシカ』を購入した、という縁が生んだものだ。そしてなにより『ナウシカ』は宮崎自身の大きな転機となった。

宮崎駿氏 ©️文藝春秋

『カリオストロの城』以降続いた不完全燃焼の時代

 宮崎にとって初映画である『ルパン三世 カリオストロの城』から『風の谷のナウシカ』までの5年間は不完全燃焼の日々だった。

(ジブリHPより)

『カリオストロの城』は高い評価を得たが興行的には苦戦をした。その後、宮崎は映画企画『リトル・ニモ』に関わるが離脱、TVアニメ『名探偵ホームズ』はおよそ6話を制作したところで諸事情により中断せざるを得なくなった。こうした中で依頼を受けて描き始めた漫画が『ナウシカ』だった。だから『ナウシカ』の映画化は、ちゃんと作品を発表できる久々の機会だったのだ。