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新型コロナワクチン“開発競争と争奪戦” 世界の3分の2は今年ワクチン接種ができない?

2021年の論点100

2021/01/06

本記事は2020年11月20日発売『文藝春秋オピニオン 2021年の論点』からの抜粋です。

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 新型コロナウイルスのワクチンをめぐる開発競争が激しさを増している。

 WHO(世界保健機関)の2020年10月19日時点のまとめでは、実際に人に投与して安全性や有効性を調べる臨床試験に入ったワクチン候補は44種類。そのうち10種類では、最終段階となる数万人規模の第三相試験を実施中だ。先頭グループの企業は、大量生産に向けた製造拠点の整備も同時並行で進めている。

ワクチン開発に破壊的イノベーションが起きている

 通常、ワクチンの開発には動物を使った前臨床試験だけで数年、承認まで10年はかかるとされるなか、極めて異例のスピードだ。

 石井健・東京大学教授(ワクチン科学)は、この状況を「まさに、破壊的イノベーションが起きている真っ最中だ」と解説する。「20年ほど前から、ワクチン業界ではイノベーションの地殻変動がずっと起きており、言葉は悪いが『筋トレ』ができている業界だった。医学的にも科学的にも爆発前夜だったところへ、今回のパンデミックが起きた」

 実際、第三相試験に入った10種類のうち6種類は、まだ広く使われたことのない、新しいタイプのワクチンだ。

©iStock.com

 中でも最も早く臨床試験にたどり着いたのが、NIH(米国立衛生研究所)と共同開発を進める米国のバイオベンチャー、モデルナだった。

 20年1月11日に中国の研究チームが新型コロナウイルスの遺伝子配列を公表すると、その2日後にはワクチンの設計を終え、3月16日には第一相試験の被験者への投与を発表した。

 なぜこれほど速かったのか。それを説明する前に、まず「ワクチンとは何か」を簡単におさらいしておきたい。

ワクチンの基本コンセプト

 私たちの体には、過去に侵入してきたウイルスや細菌などの病原体を記憶した「抗体」を作り、再び同じ病原体がやってきたときに撃退する「獲得免疫」という仕組みが備わっている。

 病原性を弱めたり(弱毒化)、体内で増えないようにしたり(不活化)した病原体、あるいは病原体の一部を、「抗原」として投与すると、免疫反応が起きて抗体が作られる。すると、本物の病原体が侵入してきたときに、発症や重症化を防ぐことができる。これがワクチンの基本的なコンセプトだ。