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《大阪・飛田新地》まゆみママの”飴と鞭”「(女の子を)しつけるというより、調教やね」「お金に執着心を持たせるんですわ」

《大阪・飛田新地》まゆみママの”飴と鞭”「(女の子を)しつけるというより、調教やね」「お金に執着心を持たせるんですわ」

「さいごの色街 飛田」#4

2021/01/02
note

 知る人ぞ知る大阪市西成区の歓楽街「飛田新地」も2020年コロナ禍に見舞われた。

 飛田新地料理組合では4月から6月まで加盟店約160店を休業。2019年のG20大阪サミットの時期にも営業を自粛したが、長期休業は異例だ。現在ではコロナ対策をとりながら営業を再開しているが、コロナ以前の状況とは変わってしまったことも多いだろう。

 色街・飛田新地は秘密のベールに包まれた街ゆえにその窮状が大きく報じられることはないが、そこには懸命に生きる人々が確かに存在している。

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 ノンフィクションライターの井上理津子氏は12年に渡ってこの街を取材し、2011年に上梓した名著「さいごの色街 飛田」(筑摩書房、現在は新潮文庫に収録)で彼らの姿を活写している。その一部を抜粋し、転載する(転載にあたり一部編集しています。年齢・肩書等は取材当時のまま)。(全4回の4回目。#1#2#3を読む)

飛田新地の料亭に掲げられた求人募集 撮影/黒住周作

◆◆◆

「ヤクザに狙われへんかって心配してくれる人もいた」

 ブログのコメント欄に「取材させてほしい」旨を説明し、「連絡をいただけないでしょうか」と、本名、携帯番号と共に書き込むと、そのまゆ美ママ(編集部註:飛田新地の料亭経営者という肩書で、2006年10月から2010年1月までブログ「男前な女であるために」を書いていた人物)から電話がかかってきたのだ。

「私のつたないブログを読んでくださって、ありがとうございます」

 とてもハスキーな声だった。風邪ひきか、酒とタバコで喉をつぶしたのかと思うような声だった。

「いや全然つたなくない。プロが書いたのかと思いました。文章がとても上手くて、びっくりしました」

「そんなん言うてくれはったらうれしいわぁ。子どものころから、音楽はまるきしダメなのに、本を読むのと感想文を書くのは好きやったんです。書くことはストレス発散になる。この年になって初めて書く楽しみを覚えました。本を読んで、こういう時はこういう言い回しをしたらいいのかと、(表現を)真似したり。書くのはほんとに楽しかったんです」

「読ませてもらってて、正直、小説や映画の世界みたいって思いました」

「東京の出版社から本にしたいというお申し出をもらったんですが、書き換えるとおっしゃったから、それはイヤやと断ったんです。ひと言ずつ、私、一所懸命に考えて書いたから」

「そうなんですか」

「ドラマになるんやったら、私の役は室井滋」

「ほぉ、室井滋か。そういう感じの方なのかな。あのブログは、読者を想定して書かはったんですか?」

「ヤクザに狙われへんかって心配してくれる人もいたけど、ほんまのことを書いて、何が悪い。息子に、私が必死で商売してきたことを伝えたいというのがあって、書いたんです」

 電話でそんなやり取りを少しして、3日後の午後2時に会う約束ができた。やはり現役の経営者だった。営業中の店の場所を教えられ、「裏口の前から電話して来てください。開けに行きますから」と言われた。