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小林正人「『この星』に絵を設置するぞ!」 自伝的小説『この星の絵の具』でアートを体験する

アート・ジャーナル

2021/01/09
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 キャンバスと、絵の具。それに、布を支えるための木枠を少々。

 アーティスト小林正人さんが創作に用いる材料はそれだけだ。彼が絵を描く人なのは、どうやら間違いのないところ。

 それなのに、だ。小林作品を目の当たりにすると、

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「これはほんとに絵画なのか?」

 と不安になってしまう。わたしたちがふつうに頭に思い浮かべる「絵」なるものと、それは大きくかけ離れているから。

ひしゃげていたり三角形だったりと、形態が自由

東京都庭園美術館「生命の庭 8人の現代作家が見つけた小宇宙」展示風景より

 小林作品はまず、四角形じゃないことがしばしばだ。絵というのはタテ長・ヨコ長の別はあれど、たいていきっちり四隅のある方形だと思うのだけど……。小林さんはそこにこだわりを持たない。ひしゃげていたり、辺の長さがバラバラの三角形だったりと、形態がまったくの自由である。

 

木枠から外れていたり、床置きにされたり

 また、通常の絵画作品は木枠にキャンバスがピンと張られ、その上に図像が描かれる。だが小林作品の場合、キャンバスが木枠から外れてしまっていることも多い。角が出るよう頑丈に作るはずの木枠も、「何が悪い?」とばかりに歪んでいたりする。

 さらには絵といえば壁に掛かっているのが通常だろうに、小林さんにかかれば作品は平気で床に直置きされてしまう。キャンバスが床を這って観る側のほうまで延びてきて、そこに絵の具チューブや布切れがのっていることも。誰かが誤って踏んだりしないかとヒヤヒヤする。

 

「いや、そんなこと気にする必要はないんだよ。それよりさ、そもそもどこからどこまでが絵なのか? って話なんだよ」

 と小林正人さんは言う。

 

 自分の絵は、キャンバスの枠内におとなしく収まっているようなものじゃない、というのだ。  

小林正人さん

「ほら、ここに一枚の絵があるだろう? そうして当然ながらその周りには、現実の世界が広がっている。何も考えずに絵をただ壁に掛けるだけなら、作品と周りの世界は別個のものとしてあるままだ。

 でも、俺の絵は違う。時空を超えて広がっていこうとするんだ。それは俺が、ただ『絵をこの壁に掛けよう』としているんじゃなくて、『この星』に絵を設置するぞ! っていうつもりで掛けたり置いたりしてるからなんだよ。