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病院代で給料がガンガン消える…謎の奇病に襲われた“借金督促”企業の異常な勤務実態

『督促OL 修行日記』より #5

2021/01/17

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

note

「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動の数々とは一体どんなものだったのだろう。

 現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

◇◇◇

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謎の奇病に襲われる……

「なんじゃこりゃぁぁーー」

 真夜中、松田優作のように私は叫んだ。

 息苦しさを感じて目を覚ますと、なぜだか枕が濡れている。電気をつけてみると一面真っ赤に染まっていた。血だ。出血元は私の鼻、どうやら寝ている間に鼻血を出してしまったらしい。体が鉛のように重く、寒くて震えが止まらない。

「げっ!!」

 体温計に表示された数字は38.5度だった。

 私はまた病原菌パラダイスのコールセンターから、風邪をもらってきてしまったんだろうか……。

(明日会社を休まないといけないかなぁ、でもちょっと病欠できるって嬉しいかも……)

 そんな不謹慎なことを考えながらも、血まみれの枕カバーを洗濯かごに放り込んで、私は再びバタン、とベッドに横たわった。

 ところが翌朝目が覚めてみると、熱は36.6度に下がっていた。

 昨夜の熱はなんだったんだろうと思いつつも、平熱ならば会社に行かなければならない。平常通り出社すると、いつものように朝から晩まで督促の電話に追われる。

 その日は何事もなく過ぎていったのだけれど、夜、私はまた高熱を出して目を覚ました。

「38.7度……」

 何回測り直しても数字は変わらない。そしてやっぱりこの熱は朝になると平熱に下がるのだ。

 毎晩、夜中に熱が出て、朝になると平熱になるということを繰り返すようになった。次第に私の体はおかしくなっていった。

©iStock.com

 モノを食べるとお腹が下る、髪の毛が異常に抜けて10円ハゲができる。特にひどかったのが肌荒れで、ニキビが頬から首筋にかけて一面にできて真っ赤にヤケドしたような状態になっていた。たかがニキビもこのくらいまで悪化すると、風がそよいだだけでとっても痛い。

 毎晩2時くらいになると決まって高熱を出して目が覚めるので、昼間は寝不足のせいでふらふらとしていた。

やっぱり、心・因・性!?

(これは、体がどっかおかしいんじゃないだろうか?)

 毎晩謎の高熱にうなされ、これはマズイと思った私は、休日出勤の代休を使って病院に行くことにした。だけど1万円以上払って血液検査やら色々したのに、結局どこも悪くないという診断結果が出た。

(いや、なんともないはずないって!)

 だって夜中には熱も出るし日中歩くだけでもしんどい。でもお医者さんがどこも悪くないと言うならしょうがなかった。

 ただニキビだけは辛かった。女って肌が汚いと何しても綺麗に見えない。私の顔は、痛くて化粧もできない状態だった。

 仕事は相変わらずハードで、朝早く出社してお客さまに怒鳴られながら夜まで督促をする。回収の目標数字は全然クリアできず上司にも怒鳴られる。繁忙期には6、7連勤のシフトを組まれることもザラだった。