昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

特集文春マルシェ

「おお、フッカフッカ」…ある日の昼食、梅山豚の肉まんのこと

文春マルシェ「美味随筆」〜お取り寄せの愉しみ#11 幸福の豚〜

2021/01/23

 食は人の営みを支えるものであり、文化であり、そして何よりも歓びに満ちたものです。そこで食の達人に、「お取り寄せ」をテーマに、その愉しみや商品との出会いについて、綴っていただきました。第11回はエッセイスト、小説家の阿川佐和子さんです。

◆ ◆ ◆

 基本的に昼ご飯は食べない主義である。

 そう宣言しておきながら、実は食べることもある。

「なんだ、食べてるじゃん!」

 周辺の者たちに笑われること多々であるが、私の本音としては、「食べたくない!」のではなく、「食べてはいけない!」のだ。でもときおり、ランチで打ち合わせなんてことがある。「ちょっとここらで蕎麦でもいかが?」と誘われて断り切れないときもある。「軽くね……」と牽制しつつ、残すことなくしっかり完食してしまう浅はかな私なのである。

 するとどうなるか。

 お腹がいっぱいになる。

 当たり前だが、私の場合、日が暮れてもなおお腹の重い状態が続く。ゆえに、晩ご飯への意欲が失せる。これが問題なのである。

 つらい原稿を書き上げたあと、あるいは緊張するインタビューを終えたあと、自らへの褒美が晩ご飯なのだ。満を持して迎える楽しいひとときを、できれば空っぽの胃袋で臨みたい。そのためには昼ご飯を抜いたほうがいい。

 コロナ禍において、外で昼ご飯のお誘いを受ける機会は減ったが、そのかわり、十二時の時報がなってまもなく、私の書斎のドアが開く。同居人の顔が現れて、

「昼めし、どうする?」

 パソコンに向かっていた私は眉間に皺を寄せて振り返る。

「さっき朝ご飯、食べたばっかりじゃん!」

 すると相方が言い返す。

「さっきのは朝ご飯、今は昼ご飯の話」

「私はまだお腹すいてないんですけど」

 不機嫌な私に恐れおののくのか、同居人氏は弱気な態度で、

「いいよいいよ。自分で作るから」

 あっさり退散する。そう言われると申し訳ないではないか。健気な妻は渋々椅子から立ち上がり、冷蔵庫をあさる。ネギとハムと玉子で炒飯を作るか。それともラーメン? あるいはきつねうどん? お揚げがないぞ。トマトスパゲッティかな。

 こうして調理し、見事な(と自画自賛する)昼ご飯が出来上がってみると、つい興味が湧いて、同居人ともどもしっかり食し、案の定、お腹がいっぱいになる。だから食べたくないって言ったのに。