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「高校の修学旅行、バスの中でえぐえぐ泣いていた」 新芥川賞作家が“小説を書いていこう”と決めた瞬間

『推し、燃ゆ』芥川賞受賞インタビュー

2021/01/22
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 推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。 (『推し、燃ゆ』)

 こんな一文で始まるのが、宇佐見りんさんの小説『推し、燃ゆ』(文藝秋季号掲載、河出書房新社)。
 自身2作目となる同作で、第164回芥川龍之介賞を受賞。さらに、書店員が投票によって「最も売りたい本」を決める、2021年本屋大賞の候補作にもなった。

「若い人やオタク方面に明るい人にはすぐ伝わるでしょうけど、さっぱり意味がわからないという方もたくさんいらっしゃいますよね。『推し』って何? それが『燃えた』って、どういうこと? と」

宇佐見りんさん ©文藝春秋/松本輝一

「推し」とは、ファンとなって猛烈に応援する、アイドルなどの対象のこと。

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『推し、燃ゆ』では、「推し」のアイドルを推すことが、生きるのもままならない主人公あかりの拠り所だった。それなのにあるとき、推しがファンを暴行して、心の支えまで揺れ動くこととなってしまう。

「推しという言葉を知らなくても読めるものにしたいと思う反面、説明しすぎると、推しという流行り言葉の解説になってしまう。塩梅が難しかったです。でも、祖母の知り合いの70代の男性の方は、『推し』というものは知らなかったけれど、スターとその追っかけはどんな時代にもいたものだからか、自分の記憶や体験に引き寄せて理解してくださったそうで、うれしかったです」