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全日空関係者“45年目の新証言”……真山仁が語る「ロッキード」執筆の舞台裏

 ロッキード事件が発覚したのは1976年2月。同年7月には「今太閤」と言われた田中角栄・前総理(当時)が東京地検特捜部に電撃的に逮捕され、日本中が騒然となった。闇のフィクサーの関与、アメリカの陰謀など、様々な疑惑が取り沙汰されながら、最高裁審理中の角栄の死(93年)によって、「総理大臣の犯罪」は曖昧なままに終わった。

 現代日本を映す鏡としてこの事件に関心を持ち続けてきた作家・真山仁氏が、「週刊文春」の連載に大幅な加筆修正を施し、初の本格的ノンフィクション作品『ロッキード』を上梓した。

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 ロッキード事件が起こったのは、私が中学1年生の三学期のことでした。ロッキード社のコーチャン元社長という、耳に残りやすい名前の人が、自社の飛行機を買ってもらうために日本の政府高官に賄賂を渡したと証言した。ところが、証言したこの人自身は、罪には問われないことになっている。「それはおかしいな」と思った記憶があります。

1993年末に亡くなった田中角栄氏

 それからもう45年が経ちますから、事件の概要も知らない人が増えていると思います。たいていの人は、角栄は悪いことをしたから捕まった、総理経験者を逮捕した東京地検特捜部はすごいと、漠然と思っているでしょう。私も、角栄は確かに賄賂をもらったのだろうと思っていましたが、今回の取材で疑問符がつくことになりました。

無謀な挑戦にあった“勝算”

 小説家としてデビューする以前から、ロッキード事件関連の書籍を集めてきました。私は現代社会をグローバルな視点で描く作品を書いてきましたが、日米関係を象徴しているこのロッキード事件の構図は、いずれきちんと理解しなければいけないな、と感じていました。もちろん、いつか何らかの小説にできるかもしれない、とも考えていました。けれども、連載のテーマをこの事件にすると編集部と決めたとき、私は「これはノンフィクションで書きます」と即断しました。

 ロッキード事件については、これまで多くの著名なジャーナリストやノンフィクション作家が本を書いてきましたし、元検察官や政治家などの当事者の回顧録も少なくありません。米側のものも合わせれば、資料も証言も膨大です。これらを前にして、今から小説にするというのは、書き手として逃げではないかと思ったのです。

 これだけ書きつくされている事件をテーマにするのは無謀とも言われましたが、私にはひとつ勝算がありました。関係書籍を読み漁ると、視点が限定されたものが多かった。それも、あらかじめ決められている結論に向かって事実が選ばれているように感じることが多かったんです。