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《44部屋中5部屋がクラスター》大相撲が苦難の時代にも消えなかった理由「そこに土俵があるからだ」

2021/01/30
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 緊急事態宣言下での開催となった大相撲初場所。横綱・白鵬を始め新型コロナ関連による休場力士が65人も出た異例の場所は、平幕の大栄翔(27)の優勝で幕を閉じた。日本の国技を担う力士たちがコロナと戦い続けた「15日間」の軌跡を、長年角界取材を続けてきた共同通信運動部の田井弘幸氏が綴る。

©JMPA

大相撲初場所は「何とか終わった……」

 激しい突き、押しの大栄翔が初優勝を遂げ、大相撲初場所は1月24日に幕を閉じた。

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「やっとだね……」「何とか終わった……」「やり切った……」

 角界関係者は一様に胸をなで下ろし、言葉の最後に「……」が付くような語感がこぼれ落ちていた。

優勝した大栄翔 ©JMPA

 大栄翔は27歳での平幕優勝で、最近の力士にありがちなガッツポーズや大粒の涙はない。淡々と喜びをかみしめたたたずまいは新鮮で、逆に心に響いた。千秋楽の夜は余韻に浸りながら酒に酔い、去りゆく本場所を惜しむのが本来の姿だ。だが新型コロナウイルス禍に襲われた昨年3月の春場所以降はそんな小粋な千秋楽が失われた。大相撲に携わる全ての人々が重い荷物を少しだけ下ろし「ふーっ」と一息つきつつ、翌日、そして次の場所への緊張感や不安と向かい合うことになる。しかも2021年最初の場所は緊急事態宣言下での開催。開幕直前から揺れに揺れた大相撲は感染者が続出すれば途中打ち切りという前例のない危機と闘った。寒くて、寂しくて、重苦しくて、長くて……。でもやっぱり相撲は面白い。さまざまな感情が行ったり来たりする15日間だった。

横綱白鵬の新型コロナ感染という衝撃

 年明け早々から政府による緊急事態宣言の再発令が時間の問題とされると、日本相撲協会は早めに動いた。横綱白鵬の新型コロナ感染という衝撃が走った5日には、15日間全てのチケット販売を6日午後5時で終了する「売り止め」を発表。政府のイベント開催要件である5000人以下の観客動員に対応するための措置だった。

©JMPA

 そして7日に東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に緊急事態宣言が発出された。その直前には親方や力士、行司、呼び出し、まげを結う床山ら協会員約900人に一斉PCR検査を実施すると発表(昨年12月以降の感染者判明で既に同検査を行った宮城野、荒汐、湊の3部屋は対象外)。陰性者100%で場所を運営するための施策に踏み切った。昨年には過去の感染歴を調べる抗体検査を希望者全員に実施したが、まさに「今」の感染を調べる大規模なPCR検査は初となる。芝田山広報部長(元横綱大乃国)は、

「足を運んでいただけるお客様への安心、安全という部分を含めて、まず内部からしっかりと感染予防をしていこうということ。相撲を支えていただいている方々への信用と信頼を兼ねて、みんなで受けようということになった」

 と意図を説明した。