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【本日承認】ワクチン忌避報道で「努力が水の泡です」…医師がメディアに抱く“危惧”

松村 むつみ 2021/02/14

 また、木下医師によると、アメリカでは、ワクチン忌避や陰謀論などはソーシャルメディア上の問題として扱われているが、日本では、大手メディアでそのような言説がとりあげられることがあり、問題が大きいという。たしかに、日本では、大手マスコミなどの権威が、データを示さずに不安感だけをあおる報道を繰り返している。

「ワクチンを怖いと思う人は一定数存在して、『怖い』と思う気持ちを理解して欲しいと思っています。そこで、大手メディアや専門家を名乗る人から『ワクチンが危険だ』と肯定されると、打たなかった自分は間違っていなかったという考えを強めてしまう。その結果として、感染症から唯一身を守る武器であるワクチンを遠ざけてしまうことになります」

副反応のリスクは「全身麻酔」や「抗生物質」より低い

 これまで論文で報告されているデータでは、実用化された2社のmRNAワクチン(ファイザー/バイオンテックおよびモデルナ)ともに、95%程度の有効性があるとされ(図1)、重症化を防ぐ効果も報告されている(図2)。また、重篤な有害事象は、ワクチンを接種した人、プラセボ(※)の人で差がないという結果が出ている(図3)。

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※……「偽薬」のことで、薬と外見上は同じだが、有効成分を含まないもの(人体に害はない)。「薬を飲んでいる」と思うだけで安心するという心理作用から、データが改善することがあり(「プラセボ効果」という)、薬やワクチンの効果をたしかめる治験では、プラセボ効果と影響を除くために、薬やワクチンを投与しないグループにはプラセボを投与する。

<図1>N Engl J Med 2020;383:2603-15., N Engl J Med 2021;384:403-16., Lancet 2021;397:99-111をもとに木下医師が作成
<図2>N Engl J Med 2020;383:2603-15., N Engl J Med 2021;384:403-16., Lancet 2021;397:99-111をもとに木下医師が作成
<図3>N Engl J Med 2020;383:2603-15., N Engl J Med 2021;384:403-16., Lancet 2021;397:99-111をもとに木下医師が作成

 今回のワクチンの安全性に対して、具体的なイメージがわきにくいかもしれないが、抗菌薬(抗生物質ともいう)や、全身麻酔のリスクと比較すると、理解しやすくなるのではないだろうか。

 今回のワクチンでは、重篤な副反応であるアナフィラキシーがでる確率は20-40万人に1人程度だが(注3)、例えば、抗菌薬によるアナフィラキシーは5000−1万例に1例程度(注4)、手術時の全身麻酔によるアナフィラキシーは1万症例に1例程度とされている(注5)。

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 ワクチンを怖いと思う人でも、細菌感染で抗菌薬を服用したことはあるだろうし、胃癌などの癌になったら、ほとんどの人が手術を選択するのではないだろうか。ワクチンは、基本的には健康な人に接種するため、効果が見えにくく副反応の報道だけが目立ってしまうが、ほかの医療行為と比べても、特に大きなリスクがあるとはいえない。

「パンデミックを終わらせ、人と人とが接触する生活を取り戻すには、ワクチンしかありません。感染を抑えるために、かなり制限した生活をしても、押さえ込めずに広がってしまっています。今回も、二回目の緊急事態宣言をださなくなければならない事態になっています。

 mRNAワクチンは、効果、安全性ともに高いというデータが出ており、ワクチンを打った人がかえって重症化するというような副反応も報告されていません。科学的に考えると、打つメリットの方がはるかに大きいと言えるでしょう」と、木下医師は語る。