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“身内にはズブズブ”菅首相はなぜ森氏失言を「承知していない」のか? 裏で一人で決断する「菅流」が生まれるまで

菅義偉論|プチ鹿島

2021/02/11

source : 文藝春秋 digital

genre : ニュース, 政治, 社会

 新型コロナウイルス対策が後手に回り支持率は急落、難しい局面に立たされている菅義偉首相。菅首相の長男による総務省幹部「接待疑惑」について「週刊文春」が報じ、東スポWebは「長男の“コネ入社疑惑”で…菅首相吹っ飛んだ『改革派、叩き上げ』イメージ」と書いた。「菅首相はたたき上げをアピールするが、成りあがった権力者の“身内にはズブズブ”というお約束パターンが踏襲されている」と時事芸人のプチ鹿島さんは分析する。

 森喜朗氏がJOC女性理事を巡って「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という趣旨の発言をしたことについて、2月4日の衆院予算委員会で菅首相は「森会長が発言された内容の詳細は承知していない」と答弁(のちに「国益にとって芳しいものではない」「あってはならない発言だ」という認識を示した)。なぜ菅首相はこれほどなにも「説明しない」のか。「勝負師」とも「ギャンブラー」とも言われる菅首相の人物像について、プチ鹿島さんがあらためて考察する。

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「政治家・菅義偉」の本性は?

 言葉は面白い。似ているようで意味が違ってみえる。

 たとえば「勝負師」と「ギャンブラー」。

「勝負師」はかっこいい。胆力にすぐれて器も大きそう。いざとなったら大勝負に出る勇気を持ち、ことごとく勝つ。「ケンカ師」も同様だ。武勇伝が多そう。

 これに対して後者の「ギャンブラー」はやや危なっかしさが漂う。賭け好きな体質ということはわかるが、結果はどうなのか必ずしもわからない。実は負けも多そう。

 似ているが似ていない言葉。次に「ブレない」と「頑固」はどうだろう。前者はカッコいい。信念や力強さを感じる。後者は単に融通が利かないとか、自分の過ちを認めないというネガティブな意味も感じとれる。

 いきなり4つの言葉を並べてみたのは菅首相を語るうえでよく出てくる言葉だからである。

菅義偉首相 ©JMPA

 首相に就任する前は「勝負師」で「ブレない」という評価をよく目にした。しかし最近の実情をみると「ギャンブラー」であり「頑固」が本当のところなのでは? と思わざるを得ないのだ。

 まず「勝負師」「ケンカ師」についておさらいしよう。

キャリアを振り返ると確かに「ケンカ師」評価に納得

《「政治家・菅義偉」の本性は「ケンカ師」である。横浜市議を経て国政に出て以来、政局の節目には必ず勝負に打って出た。》(毎日新聞2020年9月5日、伊藤智永)

 菅義偉のキャリアをみると確かにこの評価に納得できる。政治家秘書から横浜市議選に出馬したとき(1987年)、衆院選挙に出馬して国政をめざしたとき(1996年)。

 当時のエピソードが書かれたものをいくつか読んでみると、出馬は唐突で勝ち目がなさそうな戦いであり、周囲は反対したことがわかる。

©JMPA

 菅本人も著書『政治家の覚悟』(文春新書)で横浜市議選に立候補したときについて次のように書いている。

《自民党の人たちからは「今回はやめておけ」、「四年後にまた出ればいい」と何度も諦めるように言われました。しかし、私は頑として応じなかった。「これはチャンスだ」と思って貫き通しました。そこが一つの運命の分かれ目だったと思います。》

 自分でもお気に入りなのだろう。自著の「はじめに」で早々に書いているのだ。