「文藝春秋」2月号より「前澤友作――僕の『お金の哲学』を語ろう」を特別に全文公開します。(全2回の2回目/前編から続く)
借金は躊躇すべきでない
かねてから僕は生活に必要なお金を全国民に配る「ベーシックインカム」という政策に強い関心を持っていました。現金が支給され、金銭面で生活の心配がなくなると、人間は好きなことを仕事にできるのではないか。それが労働意欲につながり、労働生産性の向上につながるのではないか。僕は、ベーシックインカムこそが人間を幸せにする政策ではないかという仮説を持っており、それを証明したいのです。
日本では、国に納められた税金によって社会保障や公共事業費が賄われますが、自分の税金がどう使われたのかは把握できないこともあって、自ら喜んで納税する人は少ない。
また金融機関からの借金もマイナスイメージで語られることが多く、敬遠したり躊躇する人が少なくない。お金の量を増やすことで本当にやりたいことが実現するのならば、できる借金はすべきだと思っています。返せなかったらそれはそれで仕方がない。銀行はお金を貸してなんぼの商売ですし、リスクヘッジのために金利があるわけですからね。
世の中からお金をなくす
このようにお金に対する価値観が硬直化する現状で、僕は民間主導で「富の再分配」ができないかと考えています。いまは僕個人で活動しているだけですが、今後、大きなムーブメントを巻き起こせれば、政府支援が行き届かない分野に資金が届けられる。またお金や労働に対する考え方を劇的に変えられるのではないかと期待しています。
笑われるかもしれませんが、究極の目標は「世の中からお金をなくすこと」。貨幣価値を無効化したいのです。そんな「お金がない世界」がいつの日か来たらいいなあと思うんです。人間がお金から解放されれば、生きる意味や働くことを見直し、人間らしさを取り戻せるのではないか、と。
現金がなくなればどうなるか。
全ての金融取引が停止され、人々や企業の口座残高がゼロになる。どんなに貯蓄があろうが、どんなに借金があろうが全部チャラ。残るのは今までの人間関係や信用です。同時に全ての商品やサービスも無料になります。電車に乗るのも無料、コンビニでは自分の好きなものを好きなだけ手に入れられます。もちろん税金を納めることもありません。
お金がない世界では、自分の好きなことを仕事とし、人を喜ばせたり感動させられる人に感謝が集まる。多くの人が本来仕事とはそうあるべきものだと気付くはずです。逆に自分の事だけを考えて仕事をしている人は生きづらくなるし、お金を払う人が偉いのではなく、何かを生み出すことができる人に尊敬が集まるに違いありません。
この話をすると、「前澤はおかしい」「お金を持っているお前が『お金をなくす』とは何を言ってるんだ」とお叱りを受けます(笑)。「すみません、おっしゃる通りです」としか言いようがないのですが、もちろん現行の経済システムではお金の力はまだまだ絶大です。こうして僕の夢物語について発言の機会を与えてもらえるのも運よく事業を成功させ、経済的に恵まれ、注目していただいているからです。今後も起業家としてしっかり稼ぎ、発信力と影響力を強化し、こうした考えを広めていきたい。逆説的な言い方になりますが、「お金をなくす」ため、僕ももっと働いてお金を持たなくてはいけないとも思っています。