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『BEASTARS』が浮き彫りにした人間社会のグロテスクさ【オオカミとウサギ編】

2021/03/17

source : 提携メディア

genre : エンタメ, テレビ・ラジオ, 読書, 娯楽

『BEASTARS』が浮き彫りにした人間社会のグロテスクさ【オオカミとウサギ編】

 

『BEASTARS』が完結した。

アニメは2期が放送中、邦楽シーンを席巻中のYOASOBIが主題歌を担当していることからも、この作品が獲得してきた評価の高さが伺い知れる。

「動物版ヒューマンドラマ」のキャッチコピーで知られる本作は、人間同様に文明を築き、社会生活を送る動物たちを描いた物語。肉食獣と草食獣の相互理解を主たるテーマとして描かれるさまざまな物語は、人間社会に起こっていることを寓話的に示唆しているようにも受け取れる。その“ファンタジーでなさ”こそが今多くの人の心を掴んでいる最大の要因だろう。

本稿ではそうした、ファンタジーとして距離を取るにはあまりにも身に覚えのある劇中の描写の数々を、実社会に照らし合わせながら考えていく。

※この記事はマンガ『BEASTARS』の結末までの内容を踏まえて書かれたものです。未読の方、読書が途中の方はご注意ください。

獣社会の社会的属性・権威勾配

物語は主人公の高校生・レゴシの通う学園内に不穏な空気が漂い始めるところから始まる。レゴシと同じ演劇部の友人・テムが何者かによって食殺されたのだ。「食殺」というのは読んで字のごとく、獣が獣を食い殺すこと。肉食獣と草食獣が共存するこの世界において最もタブー視される重罪だ。

この世界では肉食獣であっても表立って肉を食べることはなく、唯一昆虫食が許されている以外には、動物を食べることは禁じられている。と言っても肉食獣には食肉欲があり、加えて草食獣を簡単に傷つけてしまえる腕力や牙もある。それらを自制して草食獣を脅かさないように振る舞うのが肉食獣のマナーとされているものの、身体的アドバンテージは社会的地位と強固に結びつく。社会が肉食獣優位な構造を基に成り立っていることは周知の事実だ。

また、草食獣たちの脅かされる立場を象徴するのが「裏市」の存在だ。都会の一角にあるこの場所では、人目をはばからず草食獣の肉が取引されている。肉食獣の大人たちはここへごく日常的に通い、非常にカジュアルに肉を口にしていく。そしてこのことは公然の秘密として、触れてはいけない話題として黙認されている。どこかで聞いた覚えのある話だ。