薬学部を出たユキは仕事上、精神障害の患者をたくさん見ていた。ユキは母親に「強引に仲を引き裂こうとすれば、桃子は廃人になるよ。廃人になるほうがいいか、過ちを犯しても元気なほうがいいのか、どっちがいいと思ってるの」と説得したが、母親は頑として交際を認めようとしなかった。
付き合いは1年で終わったが、それから桃子の声が出なくなってしまった。
ユキが振り返る。
「桃子って、呼びかけるでしょ。ところが、返事ができないんですよ。失語症のような状態が一カ月半は続きましたか。交際をやめるように迫られたとき、本来の自我と、母に従って生きてきた自我とが引き裂かれたのだと思います」
自殺未遂を繰り返し社会復帰は難しい
ユキはよく卒業できたもんだと感心しながら振り返るが、ともかく桃子は高校を卒業し、准看護婦となった。
桃子は看護婦になってから何度か自殺未遂を繰り返すようになった。ユキは「妹の自殺未遂は狂言的なところがあります。リストカットにしろ睡眠薬の大量服用にしろ、計算しているところがある。みんなから、とりわけ母親に注目され、かわいがってもらいたいんです」という。
桃子はいま両親と一緒に暮らしている。桃子の小さいときからの念願が叶ったわけだが、部屋に引きこもったままで、いまだ精神薬を欠かすことができない状態にある。神野三千子は私に「あの娘を社会復帰させるのがこれからの私の仕事ですよ」と語っていたが、ユキは「妹の症状は軽くありません。仮に軽くなることがあっても、桃子が社会に復帰することは難しいと思います。自分に自信がないから仕事に就くことは難しいだろうし、引きこもっているから結婚相手も見つからないと思う」という。
マッチングで結婚した二世を襲う受難の数々
92年の「200双(編集部注:統一教会が行っている合同結婚式。200双では200組の合同結婚式が行われている)」では日本人が絡む9組のカップルが生まれた。そのうちの一人、二世のホープと言われたHは韓国の女性と結婚した。好美(編集部注:統一教会の二世信者で合同結婚式を通じて韓国人男性と結婚。ほどなくして離婚した女性)は修練会で、私たちはいかに幸せに暮らしているかというH夫妻の講演を聞いたことがある。それからほどなくして、Hは自殺未遂を図った。妻が文鮮明の長男、孝進の愛人だということがわかったからだ。幹部信者の間では有名な話である。