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「突き抜ける ボクの打球が 白い屋根」ロッテの若き大砲・山口航輝の詠む力(俳句を)

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/03/26
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「ホームラン たくさん打つぞ 今年こそ」。マリーンズ新時代の主砲候補 山口航輝外野手が石垣島春季キャンプ直前に意気込みを五七五にまとめて詠んだ一句だ。

 13歳の時に伊藤園の新俳句大賞に学校で応募し「ラグビーの 選手の体 湯気が立つ」が佳作特別賞を受賞。それ以降、本人にとってのプチ自慢となり今がある。4年目の安田尚憲内野手、3年目の藤原恭大外野手と共に3年目のブレークを期待されている若者は打撃と共にこの一芸でもアピール。石垣島キャンプ中盤には「下半身 鍛えまくって 膝笑う」と一句読むと、その後は奥の細道の松尾芭蕉のように行く先々で新作を披露し続けている。

山口航輝 ©千葉ロッテマリーンズ

各地で誕生した名句たち

 沖縄本島に移動して迎えた2月14日、浦添でのスワローズ戦(浦添)。試合は残念ながら雨天中止もバレンタインデーにちなみ「ガーナチョコ あまくおいしい たべたいな」。親会社も配慮した見事な作品で周囲を感嘆させた。

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 チームはその後、高知入り。2月27日、高知でのライオンズとの練習試合では「土佐の春 はじめて高知 うれしいな」。この試合で初めて4番に座った山口がこみ上げる嬉しさを詠んだもの。初めて4番に名を連ねた若者の素直な喜びの感情と初めて訪れた土佐の地への想いが折り重なり、春を感じる見事な一句でもあった。

 さらに旅は続く。3月11日、お茶どころの静岡でのイーグルス戦。9試合連続で堂々と4番に座ると見せ場は三回に訪れた。イーグルス先発の瀧中から左翼席へ3ラン。少し笑顔を見せながらダイヤモンドを一周すると一句、作り上げた。「三月は 桜も咲くぞ 僕も咲く」。開幕が近づき春の訪れを感じさせる中で自身の打撃が開花するという願いを込めて詠んだ一句。なお現場で取材をしていたマスコミは句の中に「桜」を入れたことについて、さくらももこさんの名作漫画「ちびまる子ちゃん」の舞台・清水が徒歩圏内の球場であることもこの一句に込められているのではないかと深く推測をしたが、本人曰く、「それは考えていませんでした。偶然ですが凄いですね」。その潔さもまた心地よかった。

 3月17日には北の大地でのファイターズとのオープン戦。先頭打者で回ってきた六回にファイターズ2番手の鈴木健のスライダーを待っていましたとばかりに豪快に振りぬくと打球は広い札幌ドームの左翼席に吸い込まれていった。またまたダイヤモンドを一周しながら考えた一句は「まだ寒い 北の大地で ぼく熱い」。雪が残る札幌で自信を深めたアーチに寒さと熱さを合わせた名句が誕生した。

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