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「今年は自分に優しくしなきゃ」二軍スタート、ホークス・上林誠知の胸の内

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/01

 マリーンズとの開幕3連戦で3連勝。苦手としてきた宿敵を相手に投打の力と気持ちの強さを見せつけ、素晴らしいスタートを切ったホークス。しかも、3試合で27安打17得点。オープン戦のチーム打率.219はリーグワーストでしたが、その心配はどこ吹く風。本塁打も開幕3連戦で6本とお祭り騒ぎでした。当然、長いシーズンまだまだこれからですが、この調子で5年連続日本一へ……。ホークスファンとして、これ以上ない夢に溢れる幕開けとなりました。

 私自身も文春野球の今季初登板コラム。こんなウハウハな胸の高まる書き出しをしておきながら、実は両手を挙げて喜べない気がかりなことがあります。それは、上林誠知選手のことです。今年にかける想いが人一倍強かった上林選手でしたが、開幕1軍メンバーから外れてしまいました。皮肉にも、チームが好調であれば好調であるほど、自身にチャンスは巡ってきません。もどかしい思いもあるはずです。

“開幕2軍スタート”に込められた様々なメッセージ

 オープン戦、攻撃力に苦しんだチームで最も打率を残していたのは上林選手でした。本塁打2本もチームトップタイ。不甲斐なかった過去2年からの脱却へと意気込み、キャンプから猛アピールしてきました。キャンプ中、紅白戦でチーム初本塁打を放った際には珍しく笑顔を見せるなど、暗い表情をしていた昨季とは別人のように、前向きに取り組む姿が印象的でした。オープン戦の終盤はインパクトを残せませんでしたが、今年の上林選手は違うぞという気概を春先から見せてくれたように思います。

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 しかし、開幕前日、上林選手の姿は2軍本拠地・タマスタ筑後にありました。2軍戦に1番右翼でフル出場。はじめは「開幕前日だけど、調整かな?」と思いました。正確には、そうだと信じていましたが、何となく浮かない表情も見て取れました。たしかに、調整というならば、栗原陵矢選手や周東佑京選手は開幕2日前まで2軍戦に出ていました。なぜ上林選手は1人開幕前日に2軍へ……? 次第にソワソワした気持ちが確信めいたものになってしまいました。

 2軍の試合中。上林選手が開幕1軍メンバーから外れたという工藤監督のコメント付きのニュースが飛び込んできました。“開幕スタメン”から外れたのではありません。開幕2軍スタートが決まったのです。

 スタメンでなくとも、守備力も走力も高い上林選手は1軍のベンチに必要な戦力なはずです。しかし、この決断の背景には、様々なメッセージが込められていました。首脳陣が上林誠知という選手に求めるのは、守備固めでも代走でも代打でもなく、「レギュラー」なのです。それは当然、彼のポテンシャルの高さを認めているからこそでした。

上林誠知 ©文藝春秋

「終わりよければすべてよし」

 試合後、上林選手に話を聞くことが出来ました。開幕2軍を提案したという小久保裕紀ヘッドコーチに「納得できないだろうけど」と最大限気遣ってもらいながら「小さくならないで欲しい」という想いを伝えられたと言います。

 そして、上林選手が発した言葉は「終わりよければすべてよし」でした。始まる前に聞く言葉としては、多少違和感があるかもしれませんが、目先のことだけにとらわれず、未来も見つめながら大きく成長しようという決意を込めた言葉にも聞こえました。「(大事なのは)終わった時にどうなっているかだと思うので、言われたことをやるだけです」と気丈に振る舞いました。

 藤本博史2軍監督に上林選手のことを尋ねると「もちろん、悔しがってたよ。すぐ部屋(監督室)に来たしね。でも、切り替えてやってくれると思う」と頷きます。藤本監督は、上林選手が2軍で結果を残した2015年から2軍打撃コーチ、1軍でレギュラーとして出場した2017、2018年は1軍打撃コーチを務めるなど、良い時も悪い時もこれまでの上林選手の歩みを理解する存在です。

「(好不調の)波がある子。オープン戦でも最初は良かったけど尻すぼみになった。1軍で2年間レギュラーで出た年も、ポストシーズンは調子が良くなかった。持続することが大事」と話します。

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