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阪神・石井大智の投球に拍手…球場で“我が息子”たちを応援する喜び

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/02
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「新入社員すげぇなぁ~! うちの会社の新入社員もこのくらいやってくれよ~!」

 開幕戦はファンとして神宮球場内野席に陣取った。私の周りはスーツの上に黄色のユニホームをまとった“監督たち”。終始、大物ルーキーの躍動に大満足といった様子だった。阪神タイガースの新入社員・佐藤輝明のプロ初打席は犠飛。2021年のチーム初打点に監督たちは拍手で称えた。マルテが打席に立てば「31番! カークランドじゃん! 爪楊枝くわえていいよ~!!」なんて、もう舌好調。「あぁ春だなぁ~」なんて思いながら、JINGU LEMONをグビリと飲んだ。やっぱり、スタンドにたくさんのファンが詰めかけてこそのプロ野球である。

「選手も人の子だよな」とふと思った瞬間

 ぐるりと球場を見渡すと、開幕戦ということもあってか選手の両親の姿も多くあった。“我が息子”がマウンドに立てば、1球ごとに手を叩く。ランナーを背負うと組んだ手を額に当てギュッと目を閉じる。呼吸をするのを忘れているのではないかと思う程の緊張感が、ほろ酔いファンが集うスタンドの一角に漂っていた。また別の選手の両親も“我が息子”が打席に立てば、握りこぶしを膝の上においてジッと打席を見つめていた。凡退すると肩を落とし、ベンチに引き返す息子の姿を目で追っていた。

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 プロ野球は興行である。選手は球団の“商品”で、1つのプレーで一気に約5万人(甲子園球場なら)もの人を感動させることが出来る素晴らしい職業だ。一方で、阪神ファンはみんなが“監督”。お金を払って球場に足を運んでいることは重々承知だが、試合内容によってはヤジが飛び交い、聞いていても決して気持ちの良いものではない。

 神宮球場でみた選手の両親の姿をみてふと思った。「選手も人の子だよな」。いくら160キロのボールを投げても、特大ホームランを放っても、彼らにも親がいて、まぎれもなく息子なのである。自分が仕事をしている姿を親に直接見られる職業は多くないだろう。ましてや“我が息子”の仕事ぶりを、素人が評価するなんてことはプロスポーツ以外にそうないはずだ。私は結婚も出産もしていないが、自分の家族が目の前で罵詈雑言を浴びせられることを想像するだけで心が苦しくなる。

 阪神のOBが昔こんなことを言っていた。「うちのオカンも子供はいくつになっても自分の子供、だから球場に見にくるの怖いって言ってたわ~」。みなさんも自分の家族が目の前でヤジを飛ばされたらどんな気分になるだろうか。もちろんファンあってのプロ野球というのは大前提だ。しかし、選手の家族までが心無い言葉に傷ついているというのは何ともいたたまれない気持ちになった。幸いこの日は試合が阪神ペースということもあり、「気持ちのいい空振りだねぇ! これを観に来たんだよ~!」「ナイスピッチング!」温かい言葉に、私もマスクの下で笑顔になった。

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