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ライオンズナイター40年目 専業主婦から転身したディレクターが綴るラジオ中継の奥深さ

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/08
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 1982年、ライオンズナイター放送開始。テレビの地上波では巨人戦が主だった時代、パ・リーグ球団のラジオ中継、さらに応援を前面に打ち出した放送は画期的なものだった。今でこそラジオでの野球中継は各局「応援」を謳っているが、当時はさぞ目新しいものだったに違いない。

 そのライオンズナイターが今年40年目を迎えた。かつて目新しかったものも、今や現存する最古のパ・リーグ応援放送である。

 現在、ライオンズの試合はパ・リーグTVやDAZNなどのネット中継で、どこにいても生で観ることができる。もちろん、CSを中心にテレビ放送もあるので、何をわざわざ前時代的なラジオを聴く必要が……と思われるかもしれない。

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 が、ラジオでの野球中継は触れてみると意外と奥が深い。文字通り目に見えないプロの技術が詰まっているのである。そこで今回は、ディレクターが球場の中継ブースで感じるプロの技術の一端を皆さんに紹介したい。

ライオンズナイター中継ブースの様子 ©黒川麻希

専業主婦からラジオのプロに

 私自身、ラジオの野球中継に携わり始めたのは2015年(テレビは2014年から関わっている)。今季が7シーズン目なのでまだまだ新参者だが、そもそも当初はラジオ局のディレクターになるとは思ってもみなかった。ラジオでの野球中継の面白さに、私自身、どんどんハマっている。

 きっかけは2014年、当時専業主婦だった私のもとに来た、北海道の某局でアナウンサーをしている地元の先輩からの連絡だ。「タダで野球を見られるけど、手伝いに来ないか?」と。

 小学生の頃から暇さえあれば野球を見ていた私にとって嬉しすぎる誘いを、二つ返事で受けた。そこで夕方のワイド番組で中継の手伝い(iPad中継のカメラマン)をするようになり、「スコア書けるならスコアラーを」ということで、テレビ中継のスコアラーもやるようになったのである。

 翌2015年シーズンは「やるならとことんやってみよう」と思い、プロ野球全球団全試合の記録を取り、資料を作りながら試合を見ることにしたのだが、「この資料は他にも活かせるのでは?」と思い立ち、文化放送のアルバイトに応募。スコアラーとして働き、そしてディレクターになった(その後J SPORTSのMLB中継でもスコアラーを経験し、現在は文化放送と並行してJ SPORTSのMLB中継にも携わっている)。

 野球中継、特にラジオの場合、肝となるのは何と言っても実況だ。テレビならつけた瞬間に分かる対戦カードやイニング、得点、塁の状況も、ラジオでは実況者が言わない限り伝わらない。野球を見る/聴く上で最低限分かっていたい状況も、実況者のみが握っている。主導する映像がないので、実況者がすべてコントロールしていかなければいけない。言うなればラジオの実況者は、リスナーの頭の中に絵を描ける唯一の人なのだ。

「絵を描く」ために必要なものは、まずは基本とも言える正確で丁寧な描写だろう。イニング、得点、塁の状況。誰が、どう動いて、どうなったのか。そのためには目の前で起きていることや、実況者が五感で感じるすべてを伝える言葉を持っていなければいけない。

 加えて、色を添えるためには、取材を基にした選手情報が必要となる。「試合前はこう話していました」とか「きのうの試合ではこういった場面で凡退し悔しい思いをしました」といった事実から、「今こんな思いでしょう」といったことまで、普段取材をしているからこそ語れるものをまぶしていくことで、色がつくのだ。数字の羅列になってしまいがちなデータも、選手や場面によっては幅を広げるツールになりえる。

 試合のポイントを伝えるためには、野球を見る目も必要だ。ひとつのプレーが持つ意味、スコアには表れない選手の動きの意味、考えられる作戦や心理など、目に見えない部分を実況しなければ、本当の意味での野球の醍醐味を伝えられない。「絵を描く作業」は実に奥深い作業なのだ。

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