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学生もオリックスの選手も聞いてほしい「ピンチで自分に何ができるのか」を考える

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/28
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 所用で自家用車を運転していた時の事である。何気なしにラジオを聴いているとこんな会話が流れてきた。

「ついに緊急事態宣言です」
「去年以降に入団した選手達は満員の球場でプレーした事がない訳で、本当に気の毒です」
「そうですね」
「やはり、あの満員の大歓声のプレッシャーの中でプレーしてはじめて、本当にプロ野球選手になったんだな、という実感が持てますからね」

オリックスナイン

 ちょっと待て、お前らそれ、オリックスに喧嘩売ってるんか。うちのチームの試合の放送がないから、仕方なく聴いてやってるだけでも感謝すべきやのに、今のはないやろ。リスナーを何やと思ってるんや。

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 とはいえ某チームびいきの放送局による中継にそんな配慮などあるはずもなく、さすがに途中で嫌気がさして来る。そういやNHK第二は、気象通報の時間帯やな。放っておくと「甲子園は清原のためにあるのかー」とか訳のわからん事を叫びだす放送と違って、あの放送はいつも落ち着いていていい。問題は、頭の中で一生懸命等圧線引いてると、運転中に信号見落としそうになる事くらいや。

 さて、さすがにラジオの周波数を気象通報に変えようと、手をかけようしたところ、解説者が突然こう言いだした。

「でも、悪い事ばかりじゃないんですよ。例えば、今年はどこの球団も新人選手が活躍してますよね。ルーキーにとって今の状態はアマチュアの時とあまり変わりませんから、のびのびとやれるのかも知れません」

 なるほど、それは考えなかった。第70代某球団4番打者、たまには良い事も言うじゃないか。世界の盗塁王も大事にしてやってくれ。

今の状況は、大学生達にとっても大きな試練である

 さて、そんなさほど興味のない球団の試合の中継を聞きながら考えた。今の新型コロナを巡る状況は、大学生達にとっても大きな試練である。日本での流行がはじまって既に1年以上、つまり今の1年生はもちろん、2年生にとっても大学生活はずっと「コロナ禍」の中だった事になる。自分が主として教えている大学院の博士前期課程、昔の言い方で言えば修士課程に至っては、そもそも課程自体が2年間しかないから、途中で休学でもしていない限り、誰も「普通の大学院生生活」を経験していない事になる。それはとても悲しい事だし、ある意味恐ろしい事だと言うべきだ。

 そして当然、それは彼らの大学院生、或いは学部生としての生活にとって、大きな影響を与える事になる。マスコミ等で注目されるのは、彼らが下宿等で孤立する事であり、また、その中で勉学のみならず全てに意欲と希望を失っていく事だ。コロナ禍はアルバイト探しや就職活動等の面にも影響を与えているから、彼らが不安を持つのは当然の事だ。

 とはいえ、コロナ禍の状況が影響を与えるのは彼らの私生活においてのみではない。例えば、自分が教えている政治学や地域研究といった学問では、本来ならフィールドワークをしたり、海外の大学に留学して語学をはじめとする様々な知識を身に付けたり、更には日本国内外のあちこちに出かけて資料収集したりするのが当たり前だ。しかし、コロナ禍の状況ではこれらの何一つとして、大学院生達が自由にできる事はない。研究成果は学会で報告し、そこで様々な評価を貰って次第に自信をつけていくものだけど、その学会の殆どもオンライン開催になっている。だから大学院生達にとって、せっかく報告をしても、会場に聞きに来た人達と親しく会話を交わす機会すら限られている。

 自分にも大学生の娘達がいるし、何よりもこれまで沢山の大学院生や学部生を教えてきたのから、今の学生達の歯がゆさはとてもよくわかる。それなりに希望をもって入学した筈の大学院や学部での生活がこんな形で裏切られるのは、余りにも残酷だ。

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