食は人の営みを支えるものであり、文化であり、そして何よりも歓びに満ちたものです。そこで食の達人に、「お取り寄せ」をテーマに、その愉しみや商品との出会いについて、綴っていただきました。第16回は作家の馳星周さんです。
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妻は大のカツオ好きなのである。初ガツオでも戻りガツオでも、カツオのシーズンになると、カツオ、カツオを買い出しに出かけるわたしを急き立てる。おそらく、魚の中では一番好きなのだろうと思われる。
ちなみに、我が家の食事担当はわたしだ。人間と、大型犬二頭の食事を毎日作っている。
文春マルシェに、藁焼きならぬ松葉焼きのカツオの叩きがあることを、たまたま見つけた。
うむ。
これまで、散々藁焼きの叩きは食べてきたが、松葉焼きというのは初見だ。
わたしが暮らす長野の軽井沢は松の木が多く、秋になって風が吹くと、針のような松の葉が無数に降ってきて髪の毛や衣服の中に潜り込んできて往生する。枯れ葉の掃除も他の落ち葉に比べれば大変で、犬の散歩の後などは、家の中のあちこちで松の枯れ葉が見つかって、妻は掃除に大忙しだ。
あの松の葉を使って焼いたカツオか。どんな香りがするのだろう。
そう思うといても立ってもいられなくなり、妻に報告した。
松葉焼きのカツオの叩きがあるんだけど。
買って!!
間髪入れずというのは、このときの妻の対応を言うのだろうなあ。
早速注文して、配達されるのを今か今かと待った。わたしではなく、妻が。
数日後、叩きが届いた。背中の部分と腹の部分の身が別々に梱包されている。もちろん、両方一緒に食べるのだ。
同封されていた食べ方を書いた紙には、タマネギのスライスを下に敷くとなおよろしいとある。
おお、ちょうど新タマネギのシーズンがはじまったところではないか。