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《森美術館》「キャリア50年オーバー」の世界の女性アーティストたちが生み出す「美」の力にウットリと

アート・ジャーナル

2021/04/24
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 アートは日本語で「美術」と書くくらいだから、まずはハッとする美しさを湛えていてほしい。

 美しくなければアートじゃない!  本当はそう言い切ってしまいたいところ。

 ただ、美しさの定義は人によりマチマチだし、アートは思想や主張を盛る器だとの考え方もあるので、断定するのも気が引ける……。

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 そんなモヤモヤを吹き飛ばす展示がここにひとつ。思わずウットリしてしまう「美」に満ちた作品ばかりが並ぶ、森美術館での「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力 ――世界の女性アーティスト16人」。

アンナ・ボギギアンによる展示風景

 会場に身を置けば「やっぱりアートは美しくてナンボだぞ」と、唯美主義を唱える勇気も湧いてくる。

アーティストの「魂の核」が垣間見える

 世界各地で活動を続ける現役アーティストたち16人によるグループ展。出品作家には共通項がある。全員が1950年代から70年代に作家としてのスタートを切った女性アーティストなのだ。

カルメン・ヘレラによる展示風景

 つまりは少なくとも「キャリア50年オーバー」な人たちばかり。長きにわたり活動を継続してきた大ベテランが、ずらり顔をそろえている。

 それゆえだろうか、どの展示空間も一つひとつ強烈な個性に彩られている。各アーティストが醸し出す「色」は明確で、隣り合った空間同士でも印象が混ざり合うような気配はない。

 空間ごとに漂うそれら固有の色合いに浸っていると、そのアーティストが長年にわたり磨き続けた魂の核に触れたように感じられ、心が震える。

 とくに作品の前で釘付けになったのは、リリ・デュジュリーの《無題(均衡)》。これが最初に発表されたのは1967年であるという。

リリ・デュジュリー《無題(均衡)》
リリ・デュジュリー《無題(均衡)》

 金属の棒や板が組み合わされて床に置かれ、文字通り均衡を保っている。アーティストが繊細な手つきで配置することによって、棒切れや金属片が緊張感をまとい、素材同士や周りの空気との関係性が築かれる。無機物のかたまりがリズムを生じ、快い音楽まで聴こえてきそう。見惚れてしまう。