文春オンライン
文春野球コラム

あの歓喜から25年…星野伸之が考える今のプロ野球に足りないこと

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/05/16
note

 はじめまして、元オリックス・バファローズの星野伸之です。

 今回、BS12の副音声中継で一緒にオリックスを応援させてもらっている田中大貴アナウンサーから指名を受け、人生で初めてコラムを書かせていただくことになりました。まずは、このような貴重な機会をいただきました田中大貴さん、文春野球さんに感謝します。読者の皆さまは、稚拙な文章お許しください。

 今シーズンのオリックスは、山本由伸、山岡泰輔、田嶋大樹などの強力な先発投手陣に加えて、昨年ドラフト1位の宮城大弥が結果を出し、攻撃陣も吉田正尚などの主軸と若い力が上手く融合すれば、優勝争いのダークホースになる力を持っていると思っています。

ADVERTISEMENT

 そんな中、今回何を書こうかと迷いに迷った結果、キャンプから今シーズンを見ていて、僕が一番強く感じていることを書かせて貰おうと思いました。

 それは、守備でファンを魅了する場面が、以前に比べて少なくなっているのではないかということです。

ファンを魅了する守備が減った大きな要因

 阪神・淡路大震災を経験した翌年の1996年「がんばろうKOBE」を合言葉に当時のオリックス・ブルーウェーブは日本一を達成しました。

 その時代、僕が投げる後ろにはライトにイチローがいて、彼の代名詞となったレーザービーム返球で幾度となく窮地を救ってもらいました。そんなプレーを見たいと沢山のファンがグリーンスタジアム神戸に足を運んでくれ、熱い声援に強く背中を押され勇気をもらったことを思い出します。日本一は、ファンの方々と一緒に掴み取ったものだと思っています。

オリックス優勝パレード イチローと仰木彬監督と筆者・星野伸之

 さらに、僕とバッテリーを組んでいたキャッチャーは現監督の中嶋聡でした。

 おおいに余談ですが、僕の投げたカーブをミットではなく素手でキャッチするという、ある意味では守備でファンを魅了する伝説のシーンを作ってくれたのが彼です。僕の球がどんなに遅かったといっても、それはないだろうと今でも少し根に持っていますが(笑)。

 そんな中嶋に救われた場面もたくさんあります。30年ほど前の話になりますが、僕が先発登板したロッテ戦。立ち上がりの1回2回で3点を奪われ、3回にも追加点というピンチの場面、身長186cm体重96kgのメル・ホール選手がホームへ突入しクロスプレーとなったのをキャッチャー中嶋が身体を張ってブロックしてくれて勝利投手となった試合がありました。ただし、その代償として中嶋は右足を骨折してしまい長期離脱。激突の瞬間、あらぬ方向に足が曲がっていたのは今でも目に焼きついています。自分がしっかり抑えていれば、こんなことにはならなかったと大きな責任を感じていましたが、お見舞いに行った際にも、彼は一言も文句を言いませんでした。僕とは違ってできた男なのです。

 当時は、ホームでのクロスプレーもファンを魅了する守備のひとつだったと思います。一方で、キャッチャーは選手生命に関わるような怪我に繋がることもあったため、現在のコリジョンルールが採用されました。このことは、実体験もあり理解できます。

 しかし、このコリジョンルールこそが、ファンを魅了する守備が減った大きな要因のひとつだと感じています。キャッチャーがホームベース上の走塁進路を開けなければならないため、ランナーへのタッチが遅れ気味になってしまう走者有利のルールであることに加え、走者は左手左足で滑り込めるのでキャッチャーとの距離が遠くなりさらにタッチが遅くなる。これでは、どんなに肩が強い外野手がいたとしても、イチローのようなレーザービーム返球は成立しづらくなる。せめて、キャッチャーがホームベースをまたぐことはOK、走者の進路をベース上に限定する、走者がキャッチャーに接触したらアウトなど、もう少し守備側のアドバンテージも考えたルールに改善してほしいと感じます。

文春野球学校開講!