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期待するからこそ。ドラ1・木澤尚文に川崎憲次郎が漏らした“気になること”

文春野球コラム ペナントレース2021

HISATO 2021/05/20

OB川崎憲次郎のある指摘

 声の主はヤクルトOBで解説者の川崎憲次郎さんだ。コーチ歴もある川崎さんから見て、木澤はどう見えるのか。その「気になること」を聞かせて頂くことにした。

 木澤がファームで投げた、その時点での最新の動画を見た後、川崎さんは切り出した。

「僕はフォームがすごく気になってて……どう説明したらいいんだろう」

 そう言うと、その場で投球のジェスチャーをして見せてくれる。テイクバックに入る部分だ。

「『割り』って言うんですけど、この『割り』の時に手と足がすごく開いてるんですよ。腕を下ろすところが。そうすると、ここから前にいくしかないんで、全然力が入らないんです。(右手を)下ろすのは膝の方に下ろして、引き上げるようにしないと力が入らない。もったいないんですよね」

 スピードは出るけど、力が完全には乗っていないということか。

「乗ってない。自分の持ち味を本当には発揮してないんです。もっと伸びる可能性はあるのに、それがちょっと勿体ないなぁと思って、入った時から気になってたんです」

 ただ、それを直すのは結構難しいという。本人が相当意識しなければ直らないし、形だけ直せれば上手くいくというものでもないだろう。一つ変えてしまうことで、他とのバランスが崩れてしまうこともあり得る。コーチ陣にもわかっている明らかな欠点であれば、現時点では矯正しない方向なのかもしれない。

©HISATO

「球自体はいいと思うんですよ。角度があるし、最後の押し込みは結構いいんで。だからもう少し、フォームのその部分を理想に近づければ、もっと楽にいい球が投げられるはずなんです。あれだけ開いてしまうとコントロールもつけづらいんですよ」

名監督・野村克也の指令

 時に四球を連発したり、連打を浴びたりするのはそれが原因かもしれない。川崎さんは、でも、と続ける。

「でも、ヤクルトはパワーピッチャーいないでしょ。こういうピッチャーを獲らなきゃダメなんです。そこに投げられるか投げられないかは別として、速いピッチャーを獲るのが一番」

 90年代のヤクルトが強かったのはそれだと言う。「速い球を投げられる、身体能力の高い選手を獲れ」というのが、監督・野村克也さんの指令だった。

 今のヤクルトにも速い球を投げる投手はいるが、中継ぎ、抑えに回っているのが現状だ。先発完投型のパワーピッチャーは、チームもファンもずっと待ち望んでいるはずなのだけれども。

 木澤はそうなれないだろうか? 本当のパワーピッチャーに。

「伸びしろは残ってるはずなので、それをどう伸ばすかじゃないですか。フォームの矯正、ストレートの精度、変化球の質も上げていかなきゃならない。フォーム的に言えば、とっ散らかるっていうのは、さっき言った部分。トップに入りづらい、その部分の矯正ですね。それが出来たときには多分いけますよ」

 川崎さんはそう言ってくれた。今は楽天や中日関連の仕事が多いというが、ヤクルトのことも気にしてくれている。「原樹理はすごく推してたんですけど……」「(高橋)奎二は全然だなぁ」と、そんなぼやきも聞かれた。

 もう一つ、聞きたかったのは「記憶力」について。木澤は記憶力が良く、対戦した全ての打者の顔と対戦内容を記憶しているという。川崎さんは「勝てる投手の条件として、記憶力は重要」と答えてくれた。

木澤がすでに兼ね備える「勝てる投手の条件」

「先発投手は、1年間で大体30試合登板、1試合100球とすると、3000球あるじゃないですか。そのほとんどを覚えてます。記憶力が良いというのは、勝てるピッチャーの素質がある。そこで一つ人より抜ける部分はあるので、それを活用した方がいいですよね」

©HISATO

 最近の木澤は、ファームで1回限定の中継ぎで起用されることが続いている。1回を抑えられれば、一つの結果になるだろう。木澤自身はプロ入りの時、「先発でも中継ぎでもこだわらない」と言った。1イニング、思い切って腕を振っていくことも経験の一つ。しかしそれでも失点している現状がある。

 伊藤智仁投手コーチは数年前にトークイベントで、「一番欲しい投手は」と訊かれ「菅野のようなパワーピッチャー」と答えた。巨人の菅野智之のように先発で勝ちを計算出来る投手。その投手が先発すれば、その日は継投を案じなくてもいい、圧倒的な投手。

 大事に育てられ、今は一軍で投げながら成長を続ける奥川恭伸が、いずれそんな存在となるのだろうか。競うように並び立つパワーピッチャーは出てくるのか。人よりも速い球を投げ、人よりも優れた記憶力を持つ木澤には、そこに立つ素質があるのだと思う。

 木澤が寮の部屋に持ち込んだ観葉植物は、名を「ドラセナ・コンシンネ」という。花言葉は「真実」。上向きに伸びる葉が誠実さや実直さを表し、鋭く尖ることから、邪気や困難を突き抜け繁栄を願う意味があるという。

 真っ直ぐに実直に、でもシャープに強く。どこまでも上向きに伸びていってほしい。慣れ親しんだ神宮のマウンドで、真のパワーピッチャーとして君臨する姿を見せてほしい。

 その時こそ本当に「ヤクルトに来てくれてありがとう」と言いたいから。

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