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想いを伝える「遺言」のススメ

これまで築いてきた資産を自分亡き後、どうしたいか。それをのこされた家族に伝えるには、生前に遺言を作成しておきたい。スムーズな遺産分割を実現するだけでなく、財産を広く世の中のために活用してほしい、といった希望を叶えたい場合にも遺言は効果的だ。本特集では、改めて遺言のメリットや注意点を専門家に聞くとともに、遺言作成をサポートしてくれるサービスなどについても取り上げる。

のこされた家族への思いをかたちに
――税理士 佐々木 美佳氏に聞く

相続に自分の思いや希望を反映させるには遺言の作成が効果的だ。のこされた家族の相続トラブルを事前に回避することにもつながる。遺言のメリットや注意点について専門家に話を聞いた。

着実に普及する遺言 トラブル回避に効果

 一般社団法人信託協会の発表によると、遺言書の保管件数は年々増加傾向にあり、2020年9月末現在で15万1748件に達した。これは過去10年間で倍以上になった計算だ(図表参照)。遺産相続を円滑に行うための有効な手段として、遺言の作成が着実に普及している様子が窺える。

「自分の財産を誰にどのように託し、どのように処分したかったのか。それを遺言としてのこしておかないと、相続時に親族間でトラブルになる可能性があります」と話すのは、相続に詳しい税理士の佐々木美佳氏だ。

佐々木税理士事務所
税理士
佐々木 美佳氏
東京・麹町で税理士事務所を開き30年超の経験から多くの相続を体験する。「故人の遺志を繋ぐ相続を叶える」が相続申告のモットー。「おひとりさまの相続対策」にも造詣が深い
佐々木税理士事務所
税理士
佐々木 美佳氏
東京・麹町で税理士事務所を開き30年超の経験から多くの相続を体験する。「故人の遺志を繋ぐ相続を叶える」が相続申告のモットー。「おひとりさまの相続対策」にも造詣が深い

 遺言とは、自分亡き後、財産を最も有効に活用してもらうために行う意思表示の手段であり、のこされた家族に対するメッセージでもある。遺言がない場合、遺産は民法に従った法定相続となり、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)によって行われる。この遺産分割協議は、相続人にとって大きな負担になるだけでなく、場合によってはトラブルに発展することがある。

 仮に相続財産が現預金だけであれば、分割しやすく相続人同士のもめ事を避けられるかもしれない。しかし不動産など分割しにくい財産がある場合は注意が必要。「同族会社の経営者も要注意です。事業承継を円滑に進めるためには次の経営者が3分の2超の株式を相続することが望ましく、それを遺言としてのこしておくことが肝心です」(佐々木氏)

費用はかかるものの公正証書遺言が安心

 遺言には大きく分けて「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類がある。自筆証書遺言は、思い立ったときにいつでも自由に書ける手軽さはあるものの、形式に少しでも不備があると無効になってしまう。紛失や改ざんなどのリスクもあり、裁判所で相続人が立ち会って内容を確認する「検認」の手続きも必要。さらに保管には、法務局による自筆証書遺言保管制度を利用することが望ましい。

 一方、公正証書遺言は、二人以上の証人が必要で、作成に費用が発生するものの、専門家である公証人が作るため、法的な執行力を備えている。原本は公証役場に保管されるため紛失や改ざんの心配もない。

 信託銀行には、遺言の作成から執行までをワンストップでサポートしてくれる「遺言信託」がある。自分の思いを確実に相続に反映するためにも活用を検討してはどうだろう。それ以外にも死後事務を請け負うサービスや、自分亡き後の配偶者の資金管理を支援してくれる商品など、信託銀行には相続の不安を解消してくれるサービスが豊富だ。

遺言をのこすことで遺贈・寄付を実現する

 「遺言をのこしたほうがいいのは、資産家に限りません。借金がある人や離婚した配偶者との間に子どもがいる人、財産をのこしたくない子どもがいる人なども積極的に遺言を作成すべき」と佐々木氏。最近は僻地に医療を届けたい、貧困に喘ぐ子どもたちに手を差し伸べたいなど、社会に何かを還元したいと考えて遺贈・寄付を行う人も増えている。自分の希望を遺言という形で託しておけば、その意思を叶えることができる。

 とはいえ、法定相続人には遺言でも侵せない遺留分という権利がある。それを無視した遺言を書いてしまうと、かえってトラブルにもなりかねない。特定の子どもに多く財産をのこしたい場合や、寄付したい場合などは特に注意が必要だ。やはり専門家に相談するのが確実だろう。

 「苦労して遺言を書いても、人間ですから気持ちは変わることもあります。遺言はいつでも取り消しや書き直しが可能なので、あまり重く考えすぎず、家族にのこしたい財産ができたら気軽に書いていいと思います。遺言を書くのに早すぎることはありません」と佐々木氏は話す。のこされた家族への思いやりをかたちにするためにも、ぜひ遺言の作成を検討してほしい。