昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/05/20

source : 文藝春秋 2013年12月号

genre : エンタメ, スポーツ

マルちゃんが自分の力を測るバロメーター

貴乃花 あの強烈な右差しはマルちゃんの相撲人生の中で、稽古して身につけた本能的な技だね。腕(かいな)で返してくるんじゃなくて、足腰で返してくる。一回持ち上げられたら、どうにもならない。なぜそれができるのか、マルちやんの弟子にもうちの弟子にも、そこをしっかり理解してほしい。昨日今日でできるものじゃない。マルちゃんに対しては「体が大きくてパワーがあるから」、僕に対しては「師匠の息子で英才教育されてるから」なんて大半の力士が思っていたんだろうけど、二人ともそうじゃない。人知れない努力が絶対にあるんだよ。

©文藝春秋

武蔵川 親方との対戦は、絶対に右を狙っていった。差せない場合は前みつを取ってね。

貴乃花 思い出の一番ってたくさんあるんだよね。

武蔵川 1999年の九州場所で長い相撲を取ってさ、あの時は、こう来て……(身振り手振りで力説)。

貴乃花 そうそう。あの一戦では自分の形になってまわしを取ったのに、攻めきれなくてやられちゃったから、「ああ、もう自分はそろそろだな」ってね。マルちゃんの技術と体力を、もう前にはね返せないというのがわかった。だからある意味、マルちゃんの存在が自分の力を測るバロメーターになっていた。

武蔵川 毎場所、胸を合わせた同士でなければ、わからないことってあるよね。親方の引退以来、正直言って燃えるものがなくなっちゃった。

――引退後は、日本相撲協会に在籍する歴代横綱の組織「横綱会」の幹事を務める。会では年少の二人が、会費を徴収したり、九州場所では忘年会をセッティングするとか。

武蔵川 みんな横綱だから、わがままなんだよなぁ。無理ばっかり言われるの(笑)。でも、いい感じで協力しながらやってるよ。難しいことは親方がやってくれるし。

©文藝春秋

貴乃花 僕に直接言ってくださってもいいのに、皆さんマルちゃんに言うから、いつも苦労かけてるなぁ(笑)。

武蔵川 でもこれで、二人で話す機会もできたからね。現役時代は挨拶程度しかしなかったもん。

貴乃花 確かに、ほとんど話したことがないね。海外巡業に行った時とか、お互い大関横綱になる前には、まだちょっと話せる雰囲気はあったけと、上に行けば上に行くほど、それぞれに張っているものがあるから。部屋や一門の代表同士というのもあるし。

z