昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/05/20

source : 文藝春秋 2013年12月号

genre : エンタメ, スポーツ

ふたりが考える改革案

貴乃花 たとえば、相撲協会にはそれこそ厖大な資料映像があるから、一日じゅう相撲が流れている専門チャンネルを作るとか、どうだろう。

武蔵川 今、ゴルフでも将棋でも専門チャンネルがあるんだから、相撲だってできるよ。あとは国技館に、スクリーンを付けてもいいよね。物言いがついた微妙な一番なんて、館内のお客さんにはわからないから、その時だけ映せばいいんだ。国技館の2階の客席の階段は、傾斜が急だからお年寄りには危ない。エスカレーターを作ればいいのでは、とか……。

貴乃花 枡席も、今の日本人の体格には狭すぎると言われ続けてるし。

©文藝春秋

武蔵川 7年後にオリンピックがあって、国技館がボクシング会場になるらしいんだ。本場所がない時は、国技館でプロレスとかイベントもやってるし、両国駅から直結した橋を造るのもいいかも。

貴乃花 引退した力士のセカンドキャリアとして、協会組織として何かしらフォローできるシステムも将来的に考えないと。

武蔵川 新弟子スカウトの時にも、ご両親がそこを心配してるのがよくわかった。引退後、食べていけるのかって。だから、僕は受け入れ先として小さい飲食店をやってるんだけど、今、ふたりの元力士が働いてるよ。

世界に向けて宣伝したい

貴乃花 それに、日本国内だけでなく、世界に向けて大相撲を宣伝していかなきゃいけない時代だと思う。唯一、英語ができる親方のマルちゃん、どう?

武蔵川 親方として、この日本に骨を埋めるつもりだけど、これから先は相撲界も外国を視野に入れていかないと、たぶん生き残れないね。僕たちの時代は相撲がすごい人気で、何もしないでもお客さんが来てくれた。それはやっぱり、相撲そのものが面白かったから。当時の関取衆が頑張っていたからなんだよ。だから、今の相撲界でも関取衆が頑張ってくれれば、僕たち親方は苦労しないんだよな(笑)。親方となった今は、それをフォローしてサービスすることしかできない。そして、いい相撲を取る強い力士を育てることが一番なんだけど。

©文藝春秋

貴乃花 これからの相撲界には、やらなきゃいけない課題がたくさんあるよね。マルちゃんも僕も、弟子を抱えて、毎日の生活を切り詰めたりして大変だけど(笑)。でも、日本の相撲界に生き、育ててもらった横綱として、これからは親方の立場で、また日本のみなさんに夢を与えなきゃいけない。夢は「売る」ものじゃない。マルちゃんも、そんな立場の筆頭だと思ってるから。

武蔵川 でも大変だと思っちゃダメ。明るく楽しくやるしかないよ。僕はただ後ろから、あれこれ文句言って、「そこだ、貴乃花、ガンバレ、ガンバレ!」って応援しようかな。

◆ ◆ ◆

 対談終了後のこと。武蔵丸がプロデュースする都内の飲食店に、貴乃花がひとり、ふらりと顔を見せたという。

「従業員から『た、た、貴乃花さんがいらっしゃいましたっ!』と連絡があったんだよ。誘ってくれれば一緒に行ったのにさ。すぐに俺も店に行こうかと思ったけど『いや、もう帰られちゃいました……』って。フフフ、貴乃花らしいよねー」

 と、その行動力に驚きながらも、どこかはずんだ声で語っていた武蔵丸を想い出す。

 そして2018年9月25日。貴乃花は電撃的に日本相撲協会を退職する。

 盟友の記者会見をテレビの画面越しに見つめていた武蔵丸は、この日、食事も取らず、ひとり自室に籠もったままだったという――。

この記事の写真(8枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文藝春秋をフォロー
z