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大卒の新人をたった1週間で退職に追い込んだお局職員の"ある口癖"

それとも北村を恐れたか。彼が、素直に北村の叱責を受け入れなかったことがすべての災いのもとである。この場合、北村の言うとおりに従うことが「正解」だと、ほかの職員なら経験則から知っているのだが、入りたての幸助君にそれを理解せよというのも無理な話かもしれない。

そのときから北村の執拗(しつよう)ないじめが始まった。

本来なら、別の職員から彼へ、その日の仕事の指示がされることになっていたが、北村が直接、仕事の段取りを指示するようになった。彼がほかの職員へ尋ねても、みな当たり障りのない助言をした。みなとてもいい人たちなのだが、北村が怖いのだ。

「あんた大学出ているんでしょ」

私は、その週は夜勤が主だったので、幸助君の作業スケジュールをまったく知らされていなかった。北村は作業の具体的な内容をわざと彼へ伝えなかったようだ。

「2階のトイレを清掃しといて」

それだけ指示して去ってしまう。入社してまだ数日の慣れない職員には無理な相談だ。トイレ洗浄剤、消毒剤、消臭剤、替えのトイレットペーパー、雑巾、モップ、鏡用の布巾など用具の置き場所がまちまちなのだ。

トイレ掃除一つとっても煩雑な決まりごとがある。そして彼の作業が停滞すると、北村はこれ見よがしに大声で怒鳴った。中間報告の際、ほかの職員の前でも自らの威厳を示すように怒鳴った。

「なぜ、時間がかかった上に最後までできなかったの。結局、前田さんが全部やり直したのよ。前田さんのやるところをちゃんと見ていたの?」

「いいえ、指示がなかったので」と幸助君。「これ常識だと思いますけど。あんた大学出ているんでしょ。それくらい自分で考えなさいよ」

この「常識だと思いますけど」は、彼女の口癖だった。こんな調子で彼は執拗にいたぶられたのだ。

これは彼のための愛のムチなどではないことを誰もが知っている。ただ、誰一人彼女に意見する職員はいなかった。自分に火の粉がふりかかることを恐れたからだ。情けないが私もその一人だ。