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「いかがわしくて、子どもをつれて歩けない!」世界最大の新興日本人街での“ヤバい暮らし”

『バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記』より #2

2021/06/18

「Gダイ」と呼ばれ、タイを中心に東南アジアのディープな情報を発信し続けた伝説の雑誌『Gダイアリー』。通常のガイドブックにはなかなか掲載されないリアルな現地情報がぎっしりと詰め込まれ、一部の旅行者に愛読されてきた。

 ここでは、かつて『Gダイアリー』の編集部員を務め、現在はフリーライターとして活躍する室橋裕和氏の著書『バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記』(イースト・プレス)の一部を抜粋。急激に発展を遂げた日本人街シーラチャーの一風変わった日常を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

※本文は2010年頃の取材を基にしています

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 ◆◆◆

シーラチャーの悲喜劇

「やーん、嬉しいっ!」

 ドリンクのおかわりをOKしただけで、居酒屋のウェイトレスが抱きついてきた。おっぱいの柔らかなふくらみに我を忘れそうになる。

「はい、あーん」

 ご褒美として僕には、天ぷらが与えられた。だらしない顔で差し出されたエビにぱくつく。シマくんもエプロン姿のウェイトレスといちゃつきご満悦だ。

 キャバクラではないんである。居酒屋なのである。純和風で入り口には赤提灯と暖簾なんかがかかり、畳の座敷で和食をいただける居酒屋だが、問題はウェイトレスとの距離があまりに近いことであった。

シーラチャーは日系製造業の一大拠点だが夜のほうもお盛んだ ©室橋裕和

 タイ東南部チョンブリー県シーラチャー。この町の和風居酒屋は、日本の居酒屋がどんな店であるのか勘違いしているフシもあったが、これも取材であると僕たちはウェイトレスたちと飲んで飲まれて、なんだかほとんど合コンのようになっていた。

シーラチャーのちょっかい居酒屋の娘たち。たくさんの日本人のお父さんたちが癒された ©室橋裕和

ちょっかい居酒屋

 バンコクでも、Gダイスタッフはこの手の店の常連ではある。「もりもり」にも、ほとんど毎日のように行っている。店員たちが空き時間に同席して、一緒に飲めて仲良くなれる業態を、我々は「ちょっかい居酒屋」と呼んで愛してきたのだが、シーラチャーの場合は度を越していた。隣のテーブルでも、工場服をまとった日本人のおじさんが、きっと娘くらいの年であろう居酒屋娘の肩を抱いてご満悦だ。バンコクのちょっかい系はあくまで居酒屋の範疇であり、だからこそ気軽でいいのだが、ここまでシーラチャーの店をいくつか調査したところ、どこもけっこうセクハラに特化しているのであった。なかにはお持ち帰りができる店もあると聞く。

「はい、おまたせー」

 シーラチャー名物イカそうめんが運ばれてきた。ここはタイ湾を見晴らす海辺の街だ。沖合に出ればキスだのアジだのがガンガン釣れるが、なによりイカが特産だ。タイ人は茹でてサラダにしたり、トムヤムや炒め物に入れたりするが、日本人相手の店では刺身を出す。なかなかにいけた。

 このまま泥酔していたいところではあるが、我々の戦場たる夜は短い。そしてやることは山積している。きわめて勤勉なGダイスタッフは「えーもー帰るのー」なんて声を振り払ってチェックビン(お会計)し、パトロールを続ける。