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本当にこれが19歳のピッチャーか! 元オリックス・野田浩司が見た宮城大弥

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/06/19
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 オリックスOBの野田浩司です。

 6月9日京セラドームでの巨人戦、マウンド上には宮城大弥、まさに仁王立ち、本当にこれが19歳のピッチャーか! 凄い!

9日の巨人戦、7回13奪三振の快投で6勝目をあげた宮城大弥

宮城投手に魅了される中で感じた事、さまざまな思い

 彼の投手としての優れた点を挙げてみたいと思う。まずは投球フォームだ。ゆったりしたフォームでバランスが良く、何と言ってもリリースポイント(ボールを離す瞬間)でのボールへの力の伝え方が抜群だ。打者目線からすると、力感をあまり感じないフォームから、いきなり速い腕の振りで凄いボールが来るように感じるのではないだろうか。

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 球種は140km台後半の真っ直ぐ、落差のあるカーブ、チェンジアップとあるが、刮目すべきはやはりスライダーだろう。昨年の宮崎キャンプで取材した際、ブルペンで捕手の後ろから彼の投球を見せてもらったが、スライダーのキレには驚いた。左打者だと、一瞬自分の方にくるような起動から外に大きく曲がる。右打者には逆に外に行くような起動に見えて内側に大きく曲がり込んでくるように感じるだろう。そしてどのボールもコントロールがいいのだから、攻略するのはなかなか難しい投手と言える。

 さてこの日のピッチング、初回からジャイアンツ打線に全く付け入る隙を与えない内容。投げミスも少なく今日はかなり抑えこめるだろうな……と思って見ていた。すいすいとイニングは進んで6回終了時点でまだノーヒット11奪三振。得点は2対0と完璧な内容だった。7回表、先頭ウィーラー、続く吉川と連続三振、この時私は考えていた。

「これはノーヒットノーランいくかも? いや待てよ。奪三振も凄い事になってきたぞ」

 この時点で残りのアウトが全部三振なら20個。手前みそになるが1試合奪三振の記録は、私が1995年のロッテ戦で作った19個がいまだに残っている。しかもこの時受けてくれていた捕手は中嶋監督なのだ、好リードで引っ張ってくれて、ワンバウンドのフォークボールも完璧に止めてくれた。

「ヒット1本打たれたら交代するかもしれないが、もし三振もいけそうだったらどうするんやろー? しかし三振を獲るという事は球数も増えていく。まだ19歳の宮城に無理はさせたくないやろうし」

 こんな事を考えながら見ていた。ちなみに私の記録の時は162球を要している。

 さて7回3人目のバッターは4番岡本。それまでは宮城の前に2三振に抑えられていたが、1ボール2ストライクからの少し甘くなった内角寄りの真っ直ぐを、何と京セラドーム5階席に叩き込む完璧なホームランである。

 球場のどよめきが、テレビ画面を通しても伝わってきた。私自身も「あ~」とため息が漏れた。宮城の表情からもショックはうかがえたが、次打者を内野ゴロに打ち取りこの回でマウンドを降りた。7回1安打1失点13奪三振、球数は99球を数えていた。見ている人々を魅了する素晴らしい投球だった。

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