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サイン盗みは“なかった”とすると、あのとき近本光司選手は“何をやっていたのか”を妄想する

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/07/12
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何とも後味の悪い「サイン盗み」疑惑

 7月6日に神宮球場で行われたヤクルトスワローズ対阪神タイガース戦にて、近本光司選手の「サイン盗み疑惑」が問題となりました。5回表のタイガースの攻撃中、2塁ランナーの近本選手が左手を3回ほど持ち上げるようなしぐさを取り、それをスワローズの村上宗隆選手が指摘したことでプレーがいったん中断。その後、矢野監督と高津監督が衝突するなど、荒れた試合となりました。

 結局、「サイン盗みがあったとは思わないが、紛らわしい動きがあったことは事実」だとして、セ・リーグから球団に対して注意が行われました。

 なんともかんとも、後味の悪い話です。しかもその後、二軍戦のタイガース対ドラゴンズ戦でもサイン盗み疑惑が起こるなど、問題の火種はいまだにくすぶっています。

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 スワローズファンとタイガースファンの間では、いまだに激論が交わされているようです。ただ、当事者同士だとどうしてもヒートアップしがちです。ここは私のような、まったく利害関係のないベイスターズファンが問題を分析したほうが、冷静な結論が得られるのではないか。そう考え、批判覚悟であえてこの話題を取り上げてみることにいたしました(なぜ、利害関係のないベイスターズファンがタイガースコラムを書いているのかというより根源的な問題は、この際不問とさせてください)。

近本光司

“悪魔の証明”を試みるより、「何をやっていたか」を考えてみる

 ところで、「なかったことを証明するのは不可能に近い」ことを、「悪魔の証明」といいます。つまり「サイン盗みはあった、なかった」を議論したところで、永遠に結論は出ないでしょう。そこで、ここでは違ったアプローチを取りたいと思います。

 サイン盗みでないということは、何かしら別の行動をしていたことになります。では、それは何か。つまり、「近本選手は何をやっていたのか」。タイガースサイドからのコメントによれば、「帰塁のタイミングをはかっていた」ということで、確かにそれが一番可能性が高そうではあります。ただ、オールスターでサイクルヒットを飾るなどアメージングな近本選手のことですから、別の可能性も考えられます。ここではその可能性を探っていきたいと思います。

1.リーリー説

 少年野球漫画の名作『キャプテン』では、選手は塁に出ると必ず「リーリー」と言っていました。幼いころこの漫画で野球の魅力を知った私は、「塁に出たらリーリー言わないと失礼に当たる」とずっと思いこんでいましたが、実際には草野球で使われる程度で、プロでそんなこと言っている人を見たことがありません。

 それはともかく、ピッチャーにプレッシャーを与えるために、リードしていることをアピールするというのは、戦術として十分ありです。しかし、昨今はコロナ禍により、観客すら声を出すことが制限される時代。近本選手はだからこそ、声を出さずに指でリードを表現したのではないでしょうか。実際、2回目のさっと手を出してひっこめる姿は、手話の指文字の「り」の形(指2本を立ててスライド)に似ているような気がします。つまりこの動作は、手話によって「リーリー」という音を表現した可能性が考えられます。

2.交通ルール遵守説

 もはや都会でやっている人をあまり見かけませんが、自転車に乗って曲がる際、曲がる方向に手を出すというルールがあります。後続車に曲がる方向をアピールするという、ウインカーの役割を果たすわけです。左手を横に出す近本選手の動きは、これをほうふつとさせるものでした。

 では、近本選手にとっての「左」とはどこか。三塁方向に向かっている近本選手にとっての左とは当然、「本塁」。つまりあのしぐさはバッターボックスに立つ佐藤輝明選手に対して、「俺はどんな当たりでもホームを狙う! お前の好きなように打て!」という先輩としてのエールだった可能性があります。

 あるいは、後ろを守る外野手に対し、「俺はホームに突っ込む。刺せるもんなら刺してみろ!」という挑発だった可能性も。自転車のサインが主に後ろを走るクルマに向けて行われることを鑑みると、後者の説が濃厚です。どちらにしてもかなり暑苦しい話で、「あれ、近本選手ってこんなキャラだっけ?」という気がしないでもないです。

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