昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載名画レントゲン

絵画の歴史にある「線で描くか」「色面で描くか」という問い…「ミッフィー」はどっち?

ディック・ブルーナ『うさこちゃんと にーなちゃん』(1999年)

2021/06/24

 オランダはレンブラント、フェルメール、ゴッホにモンドリアンといった巨匠を生んだ国。そして、絵本の世界には「ミッフィー」でおなじみのディック・ブルーナがいます。10代の頃は疎開先で父の本棚にあったレンブラントやゴッホの画集を見て、絵画への情熱をはぐくみました。ブルーナの絵はシンプルで愛らしいものですが、そこには西洋美術の伝統を受け継ぎつつ、子供が楽しめるような工夫がいっぱい。

 絵画の歴史には「線で描くか」「色面で描くか」という大きな問いがあります。ミッフィーはどちらでしょう? もちろん、はっきりとした黒い輪郭線が特徴的ですね。線画の楽しみは、その線がどんな線なのかを見るところにあります。太さ、速さ、筆圧、筆触の長さ、形状、などなど。ブルーナの線はペンではなく、黒のポスターカラーとお気に入りの筆で点と点をつなぐように描かれたもの。そのわずかな揺らぎ具合から、ゆっくりと心をこめて引かれたのが感じられます。

 ブルーナの絵は線画であると同時に、鮮やかでフラットな色面構成でもあります。使用するのはブルーナカラーと呼ばれる、厳選された色味の赤(黄色が入った色味が特徴)・青・黄・緑の4色に茶色とグレーのみ。製作方法は時期により少しずつ変化しますが、80年頃から線画が出来上がると透明フィルムに焼き付け、絵本のサイズの紙の上で配置を考えたそうです。色紙を切ってあてがいながら配色を決め、最終的に台紙に貼り付けられます。その上から線画のフィルムをテープで固定。このため印刷原稿の実物では、フィルムが少しズレた部分から台紙の色紙が確認できるものも。

 このような線とフラットな色面による表現はモンドリアンを彷彿とさせます。ブルーナはその影響を否定はしませんが、強く感銘を受けたのはアンリ・マティスのロザリオ礼拝堂で見た、青・黄・緑からなるステンドグラスだと語っています。また、マティスは自由闊達な線画や色紙を切った貼り絵が有名で、そこもミッフィーの世界に通じるものがあります。

『うさこちゃんと にーなちゃん』1999年 印刷原稿 © Mercis bv

 今回の作品の構図は、ミッフィーと文通相手のメラニーが、ボールとお花を挟んで鏡面対称に。ミッフィーの服は赤の場合も多いのですが、茶色のメラニーが着ている赤と補色になるよう、青を身に着けています。茶色のメラニーの方が目をひきそうですが、ボールの中心が右寄りで、ミッフィーに注意が向くようになっていますね。

 見る人が自由に見られるようにとの思いを込めて、できるだけシンプルに削ぎ落とした表現。ミッフィーがいつも正面を向いているのは、読者の方を見ていますよということ。正方形の画面にしたのは、子供が本を手に持ったとき顔にぶつからず、持ち運びやすいから。ところで数多く刊行されているブルーナの絵本のなかでも、美術をテーマとする本欄でとくにお勧めしたいのが『うさこちゃん びじゅつかんへいく』(ディック・ブルーナ文・絵/まつおかきょうこ訳 福音館書店)。美術の重要な論点にさりげなく触れていて大人も楽しめます。

INFORMATION

「誕生65周年記念 ミッフィー展」
青森県立美術館 ~7月4日
東京・立川、福井、名古屋を巡回予定
https://miffy65.exhibit.jp/

●美術館の開催予定等は変更になる場合があります。ご来館前にHPなどでご確認ください。

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー