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「音が無いのに聞こえる……」驚愕の視聴体験『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』のスゴさ

2021/06/29
 

「音が無いのに聞こえる……」

 そんな摩訶不思議な作品が『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』(Amazonプライムで配信中)。アカデミー賞で編集賞・音響賞を受賞した本作は巧みな音響で観客を未知の世界へ導く。

 映画は“爆音”から始まる。全身タトゥーのヘビメタドラマー、主人公のルーベンがドラムを激しく打ち鳴らす。彼は恋人と共にライブ活動をしながら、トレーラーハウスで全米各地を巡る日々を送っていた。しかし、ある日、彼の耳はほとんど聞こえなくなる。映画冒頭で見ていた鳥のさえずり、コーヒーを淹れる音など何気ない日常の景色が、途端に異質な風景に見える。「音が聞こえない」ことで世界と自分が隔てられたような疎外感をおぼえるのだ。観客はルーベンと一体となり、音の景色の変化によって様変わりする世界を体感していく。

「難聴」という現実を受け入れられず、錯乱状態に陥るルーベン。やがて彼は、ろう者たちが共同生活するコミュニティで暮らし始める。ここから映画は一転して“静寂”の世界に。台詞も少なく、静かなシーンが続く。だが、ろう者たちの姿を見ていると、次第に観客の脳内にも笑い声や賑やかな音が満ち溢れてくる。

 恋人やライブ活動への未練を断ちきれないルーベンは、インプラント(人工内耳)手術を受ける。その後の音響がまたスゴイ。手術は成功し、確かに聞こえるようにはなるが、それは硬質でザラザラとした機械音。すると、見慣れた景色もまるで見知らぬ惑星のように見えてしまうのだ。

 ろう者のコミュニティを去る直前、ルーベンはこう語りかけられる。

「静寂こそが心の平穏を得られる場所だ」

 最後に彼はついに「難聴」という“変化”を受け入れる。人工内耳の機器を外し、再び静寂の世界に身を置く。すると、「音の無い景色」を見ている観客の脳内にも“穏やかな音”が響き渡るのである。

INFORMATION

『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』
https://www.amazon.co.jp/dp/B08P2K24GR

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