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池江璃花子選手21歳に「誰も分からない未来に向かって、自分ができることを少しずつ積み重ねた」日々

完全密着記 池江璃花子「ありのままの自分を」#1

 7月4日、21歳の誕生日を迎えた競泳の池江璃花子選手。昨年5月9日に放映されたNHKスペシャル「ふり向かずに 前へ 池江璃花子 19歳」は、406日ぶりにプールに入った場面とともに、「ありのままの自分を見てもらいたい」と語る池江さんの真摯な姿が大きな反響を呼びました。

「誰も分からない未来に向かって、自分ができることを少しずつ積み重ねていく。その姿に勇気が湧いてくる」

 退院後の池江さんに密着してきたNHKのディレクター・宮内亮吉氏が、番組で描ききれなかった素顔についてこう明かした、「文藝春秋」2020年7月号の記事を特別に掲載します。(※日付、年齢などは当時のまま)

(全2回の1回目/#2へ続く)

池江璃花子選手 ©NHK

◆ ◆ ◆

406日ぶりのプール

「なんかスカスカする。すごいいっぱいオフした(休んだ)後みたいな」

 今年3月17日、406日ぶりにプールの水に触れた池江璃花子さん(19)の第一声だ。3日泳がなければ、感覚を失うトップスイマーの世界。水を掴みきれない感触に戸惑いつつも、体を沈めていった。

 この日、普段の練習用水着でプールサイドに現れた池江さん。ただ、いつもと違ってコーチもいなければ、練習メニューもない。一瞬、そのことに戸惑ったという。「とにかくやるしかないか」。医師から出された条件は、水に顔をつけないこと。平泳ぎでおもむろに泳ぎ始めた。

「めっちゃ気持ちいいんだけど」

 彼女らしい屈託のない笑顔だ。続けて背泳ぎで10数メートル。興奮を抑えきれない様子でこう口にした。

「すごく気持ちいい。すごい、すごい、楽しい。いいなぁ水泳選手」

 プールサイドから「『腹5分目』くらいで終わっとくか」と声をかけられたが、池江さんは即座に「まだ『3分目』!」。笑い声に包まれた。

 406日ぶりのプールは約30分間。新たな出発の日となった――。

406日ぶりのプール ©NHK

 5月9日放映のNHKスペシャル『ふり向かずに 前へ 池江璃花子 19歳』。私はディレクターとして退院後の池江さんに密着してきた。

 出会いは2017年秋。前年のリオデジャネイロ五輪(100メートルバタフライ)で5位に入賞した池江さんは“燃えつき症候群”で苦しんでいた。タイムは伸びず、不安でレース前に泣くこともあったという。私は、再起を志す彼女の密着番組を手掛けることになった。迎えた18年4月の日本選手権。日本記録を計6回更新し、力強くこう宣言した。

「来年、再来年と絶対(タイムを)落とさないようにしたい」

 以降も私は“東京五輪のヒロイン”を追い続けてきた。昨年1月からのオーストラリア合宿も訪ねた。だが取材を始めようとしたその日の早朝、「体調不良で急遽日本に戻ることになりました」と連絡を受ける。

〈「白血病」という診断が出ました〉

 SNSに池江さんがそう記したのは、2月12日の午後2時。絶句するしかなかった。翌13日、池江さんからメッセージが届いた。

「必ず戻ってきます。待ってて下さい」