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池江璃花子選手21歳が明かしていた“本心”「どん底まで行った人間がここまで上がってきたんだ」

完全密着記 池江璃花子「ありのままの自分を」#2

 7月4日、21歳の誕生日を迎えた競泳の池江璃花子選手。昨年5月9日に放映されたNHKスペシャル「ふり向かずに 前へ 池江璃花子 19歳」は、406日ぶりにプールに入った場面とともに、「ありのままの自分を見てもらいたい」と語る池江さんの真摯な姿が大きな反響を呼びました。

「誰も分からない未来に向かって、自分ができることを少しずつ積み重ねていく。その姿に勇気が湧いてくる」

 退院後の池江さんに密着してきたNHKのディレクター・宮内亮吉氏が、番組で描ききれなかった素顔についてこう明かした、「文藝春秋」2020年7月号の記事を特別に掲載します。(※日付、年齢などは当時のまま)

(全2回の2回目/#1から続く)

池江璃花子選手 ©NHK

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大学の補講にショッピング

 白血病は寛解したものの、再発を防ぐため、退院後も免疫抑制剤など1日20錠の薬を服用していた。トレーニングに励んでいたが、体調はなかなか上向かない。原因不明の腹痛に襲われるなどトレーニングの中断もしばしばで、医師からプールに入ることはまだ止められていた。

 そこで、泳ぐこと以外の時間を楽しんでみることにした。入学はしたものの、通えていなかった大学。体調を見ながら進んで補講も受けた。

――何の課題なんですか?

「経済学。アスリートなのに、経済を勉強しています」

 後期12コマ分のスライドを見ながら、レポートを作成していた。

「疲れたー。終わった、オッケー」

 久しぶりのショッピング。馴染みのファッション店に向かうと、

「これ、かわいい」

 と、さっそくパーカーを手に取る池江さん。ワンピースやスプリングコートを幾つも試着する。

「足が細くなって、似合う服が増えたんです。それがちょっと嬉しい」

 時には自身の恋愛観を語るなど、19歳らしい生活を満喫しているようにも見えた。

――これだけ水に入らない生活は?

「初めてです」

――そういう生活ってどうですか?

「一言でいえば、暇(笑)。今は家で映画を見るか、トレーニングするか、友達とちょっと遊ぶくらいしかないので。水泳が全く外れちゃっている。ちょっと物足りないというか、自分の生活の中に。引退したらどうするんだって話なんですけど(笑)」

――引退なんてまだまだ先でしょ。

「10年ぐらい先かな」

 水中出産で世に生を受けた池江さんが、姉と兄の影響で水泳を始めたのが3歳の時。5歳で4つの泳ぎ全てを習得するほど、のめりこんでいく。泳ぐことが「日常」だった。

「例えば、これは食べちゃダメです、と言われたら、こっそりとでも食べられるじゃないですか。でも、水泳ができなくなりましたと言われたら、もう泳いじゃダメは、結構重い」

 次第に「泳ぎへの渇望」が垣間見えるようになってきた。