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連載サウナ人生、波乱万蒸。

「ヤクザ風呂と地元で呼ばれていた」 24歳のアパレル職が、京都「梅湯」経営者に“転職”したワケ

「ヤクザ風呂と地元で呼ばれていた」 24歳のアパレル職が、京都「梅湯」経営者に“転職”したワケ

京都・梅湯#1

2021/08/13

 旧い街並みや路地、盆地特有の蒸し暑さを感じながら鴨川沿いを歩く。五条大橋を渡ると高瀬川沿いに唐破風作りの古い茶屋やインバウンド向けの宿泊施設など、新旧が混在する旧花街が眼前に広がる。その一角にそれはある。サウナの梅湯。可愛らしくてポップな電飾看板と、中に入れば旧いながらもよく手入れされた昔ながらの銭湯空間が、今がいつの時代なのかを忘れさせてくれる。

 
色街の名残り
 

 入口で450円を支払う。ロビーにはTシャツをはじめ様々な梅湯の物販物が所狭しと並べられており、そのたたずまいに反して、今っぽさも感じられる。脱衣所には高く積まれた脱衣籠。京都では脱衣籠をロッカーにそのまま入れる銭湯が多い。

オリジナルグッズも充実
飲みものにも世界観が
 
京都では脱衣籠をロッカーにそのまま入れる銭湯が多い

 地元のおじさん達に交じり、のんびりした気分になりながら浴室に入れば、浴室一面に設えられた窓からは太陽光が燦々と降り注ぎ、こぢんまりとした浴室ながらもこの上ない開放感。浴槽も4種類と、それぞれは小さいものの充実のラインナップ。

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 浴室の奥にはお待ちかねのサウナ室。ここも小さいながらもガラス張りで開放感は抜群。古いストーブとなんとも味わいのあるタイルが特徴的で常連さん達がゆっくり、本当に気持ちよさそうに蒸されている。

 サウナを出ると目の前には京都の良質の地下水を使った水風呂が。その水はこの上なく柔らかく、体全体を吉野葛の様に優しく冷たく包み込んでくれる。

 
 

 京都の伝統文化を維持しながらも、アップデートされた心遣い。

 2015年、24歳の若さで廃業寸前の梅湯に再び火をくべ、たった5年で7軒の銭湯を再建した男、銭湯活動家、湊三次郎。そしして兄の背を追いながら東京で銭湯の再建を続ける弟、湊研雄(けんゆう)。銭湯の神に愛された、湊兄弟。彼らの人生もまた“波乱万蒸”だった。(全2回の1回目)

◆ ◆ ◆

兄の湊三次郎さん(右)と、弟の湊研雄さん(左)
 

「青春18きっぷと夜行バスで全国の銭湯巡りをしてました」

湊三次郎(以下、三次郎)「大学に入って浜松から京都に来て、家の近くに銭湯があったんで行き始めたら京都にはものすごく沢山銭湯があることがわかって。ネットで調べたら、1000軒とか行ってる銭湯マニアが沢山いて、そのブログとかを読んで衝撃を受け、そこから完全にハマって青春18きっぷと夜行バスで全国の銭湯巡りをしてました」

 

 とりつかれたように何かに熱中する。誰でも思い出すと苦笑いをしてしまうような若い頃の思い出が一つや二つはあるはずだ。しかし、三次郎の湯を沸かすほどの熱い銭湯愛は簡単には冷めやらなかった。