起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。
もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第65回)。
緒方の妹夫婦と10歳の娘に繰り返し通電
松永太が緒方純子の母である和美さん(仮名、以下同)に、福岡県北九州市の「片野マンション」30×号室で通電の暴行を加えるようになったのは1997年6月頃。さらに同年夏頃になると、父の孝さんに対しても同様に通電を行うようになったことは、前回(第64回)記した。
同時期、松永は緒方の妹夫婦や当時10歳の彼らの娘に対しても通電を行うことで、反抗心を奪っていたことが明らかになっている。
福岡地裁小倉支部で開かれた公判での判決文(以下、判決文)では、その通電による暴行について次のように説明された。
〈松永は、平成9年(97年)9月ころから、智恵子(緒方の妹)、隆也(智恵子の夫)及び花奈(同夫婦の長女)に対しても通電するようになった。
松永は、智恵子が「あ、はい。」と返事をするのが気に入らず、その度に智恵子に通電した。また、隆也をして智恵子に対する不満を言わせ、それを理由として松永が智恵子に通電した。(略)
松永は、智恵子に通電するようになってからしばらくして、隆也に対しても通電するようになった。松永は、隆也が外出中に「片野マンション」への連絡を怠るなど、その行動や態度が気に入らないときに通電した。また、隆也と智恵子の夫婦間の不満を煽り、互いに言い争わせた上、松永が智恵子に代わって隆也を責めた。また、隆也に「隆也が智恵子の首を絞めて殺そうとした。」とする上申書を作成させていたが、その件で隆也を責めて通電した。(略)
智恵子及び隆也は、それぞれ松永から激しく責められた時期があり、ひどいときには毎日通電されていた。
松永は、花奈に対しては、食べかけのお菓子を食べたなどという理由を付けたり、「知ってることを言え。」などと追及したりして通電した。松永は、智恵子と隆也の面前でも花奈に対し通電したが、そのときも智恵子と隆也は何らこれに逆らうことはなかった〉
松永はまず緒方家に養子に入った隆也さんと智恵子さんの関係に亀裂を入れ、分断することを企んだ。当時38歳とまだ若く、元警察官という経歴を持つ隆也さんを警戒し、前述の上申書のように、彼自身が犯罪行為に手を染めたとする弱みを握るまでは、隆也さんに同調するふりをして、その機会を窺っていたのである。