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「板長を呼べ、謝らせろ!」と激怒するクレーマーには…温泉旅館の女将が明かす“ヤバい客の撃退法”

温泉女将の仕事術――「雪国の宿 高半」高橋はるみさん

2022/05/01

source : オール讀物 2021年8月号

genre : ビジネス, ライフスタイル, 働き方,

 今年、コロナ禍が始まってから3度目のGWを迎えた日本。苦境が続く宿泊業の中で、全国の温泉旅館は感染対策を施しながら、新たな「おもてなし」を模索している。その最前線に立ち続けているのが、各地の“女将”たちだ。

 長年温泉旅館を取材し、『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)などの著書でも知られる山崎まゆみ氏が、そんな女将たちの“とっておきの仕事術”を紹介する。

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第一条 お客様への謝罪は40分話して見極める

 温泉旅館はお客の滞在時間も長く、寝食も提供する特別な場所である。そこで日々心をこめた“おもてなし”を実践する女将たち。お客からの理不尽なクレームを受けながらも、お客のために奔走する女将は、いわばサービスの練達者だ。

 本連載では、そんな女将たちの“仕事術”を覗きつつ、私たちの日常生活にも活用できそうな“技”をご紹介していく。

「雪国の宿 高半」部屋と窓からの景色

川端康成が『雪国』を執筆した温泉旅館

 連載第1回にご登場いただくのは、新潟県越後湯沢温泉「雪国の宿 高半」の女将、高橋はるみさん。新潟女将の会の会長を3期務め、女将歴は30年を超える。川端康成が小説『雪国』を執筆した「かすみの間」がいまも残る高半は、映画『雪国』の撮影で主演の岸恵子や池部良、八千草薫らも滞在した。はるみ女将は、池部良から赤と黒のタータンチェックのコートを貰った逸話も持つ。地元の塩沢紬を上品に着こなす、たおやかな姿が印象的な女将だが、これまで数多の修羅場も踏んできた。個性ある女将を束ねる人望や人情味溢れる人柄は、その圧倒的な経験値がもたらすものだろう。

 かつて温泉旅館の女将は、「お客様は神様です」を地で行っていた。では、その女将の辛抱の限界点とは、一体どこだろうか――。

川端康成が執筆した「かすみの間」

「板長を呼べ、謝らせろ」と激怒する男性

「部屋付きの仲居が、お客様にマグロの切り身を夕食でお出ししたら、『なんでこんなものをお客に出すんだ!』とお叱りを受け、真っ青になって私の元にやって来たことがあります」

 女将がかけつけると、部屋には40歳前後の夫婦と小さな子供2人の4人家族がいた。激怒していたのはその父親だった。