文春オンライン

妊婦の海外旅行「マタ旅」の危険と「地毛証明書」の悲哀

日本の学校は「教えるべきこと」を再確認しましょうよ

2017/11/02

 以前から、キレイ目だが確実に頭のおかしい雑誌やネットメディアが、妊娠した女性をターゲットにした国内・海外旅行を煽る記事を書き、旅行業界とのタイアップに問題があったんじゃないかという指摘も大量に飛び出しております。身の回りでも身重の奥さん連れて旅行にいったという友人が無邪気にFacebookやInstagramで写真アップしてて、見る者の血圧がぐんぐん上昇するケースも見られるぐらいに、この妊娠中の旅行「マタ旅」の危険性が衆知されないという状況にあるようです。

「何が起きてもおかしくない」からこそ大事にされるべき

 というか、私も家内が妊娠期間中は大きいお腹で辛そうにしていたので、少しでも快適に安心して乗り越えるために何ができるか考えたりもします。でも、そもそも妊娠期間中というのはお母さんも胎内の赤ちゃんも「何が起きてもおかしくない」からこそ大事にされるべきだと思うんですよね。医療設備のない僻地の温泉や意思疎通がむつかしいかもしれない海外に妊婦連れて行って、万が一があったとき大変なことになることぐらいは気づいてほしいものです。

 妊娠があたかも安全であるかのような神話があるのは事実で、うっかり「安定期」とか名前がついていると妊婦でも旅行にいっても大丈夫って誤解するところはあるかもしれません。日本の産婦人科は相当頑張ってその安全を築き上げ、日本の新生児死亡率を引き下げてきた歴史があるわけですよ。そりゃ医師だって家族同様目の前の妊婦さんやお腹の中にいる赤ちゃんを死なせたくないと努力してこんにちのような低い死亡率があるわけです。でも、それが当たり前の世の中になり、お産は安全で当たり前なのだ、妊娠はだいたいちゃんと子供が生まれてくるものだという思い込みが、妊婦やその家族に油断をさせてしまい、病院設備が整っていない温泉街などに繰り出した結果が重篤な事故に繋がるのだろうと思います。

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©iStock.com
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妊婦受け入れについての制度整備、規制論もあってしかるべき

 かくいう山本家も、三男出生のときは切迫流産気味になって、家内は妊娠中期から仕事も育児も休んでほぼ安静状態を強いられたりしました。医学的な知識のある家内であっても、いざ自分の妊娠や出産となると精神的にしんどいことになるわけでして、仕事返上で長男次男を幼稚園に行楽に一人で連れ回したあの頃の記憶が私も鮮明に蘇るわけであります。我が事ながら、あれは完全に主夫でした。いまでも主夫な時間帯はありますが。

 報道では、最近そういう事故に見舞われて妊娠した奥さんも胎内の赤ちゃんも助からず亡くなってしまった悲惨な事例が報じられたり、妊娠中に海外旅行を強行しハワイなどで陣痛に見舞われて何千万円も医療費を取られるというケースもあったりします。いや、ほんとシャレにならないって。そういう全然笑えない事例も、ちゃんとした知識がないからこそだと思うんですよね。しかも、そういう場合、リスクを取って治療をした産科医が訴えられたりするわけで、せっかく医療業界全体で取り組んで成果の出ているはずの新生児死亡率がまた上がり始めたりすると日本人全体がもっと不幸になってしまうでしょう。

 こういうのを見ると、むしろ旅行会社や旅館などで、妊婦の受け入れについての連絡体制を敷いたり、場合によっては航空会社が妊婦の受け入れを断ったりするような規制さえも考えないといけないんじゃないかとすら思います。だって、マジで危ねえっすよ。ストレス解消で風呂入りたいのは分かるけど、この妊婦胎児死亡例でも分かる通り本人は亡くなってしまうことがあるし、残された家族も人生真っ白になるだろうし、受け入れて最善を尽くした医師もやりきれないし、リスクに見合うメリット全然ないじゃないですか。

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