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【第2部】 補聴器編 
補聴器を“つけ続けること”が脳を鍛える第一歩

歳を取れば、耳が遠くなるのは当たり前――。こう考えて、聞こえを放置していないだろうか? 実は聞こえの状態は、認知症をはじめとした脳の疾病にも関わってくると考えられている。知っておきたい「耳との付き合い方」を専門家に聞いた。

難聴を放置すると脳にも影響が及ぶ

【この人に聞きました!】
杉浦彩子さん (すぎうら・さいこ)
豊田浄水こころのクリニック副院長、国立長寿医療研究センター耳鼻いんこう科非常勤医師。加齢性難聴、耳鳴が専門。著書に『誰にも訪れる耳の不調・難聴を乗り越える本』(さくら舎)など。
【この人に聞きました!】
杉浦彩子さん (すぎうら・さいこ)
豊田浄水こころのクリニック副院長、国立長寿医療研究センター耳鼻いんこう科非常勤医師。加齢性難聴、耳鳴が専門。著書に『誰にも訪れる耳の不調・難聴を乗り越える本』(さくら舎)など。

――高齢になって音が聞こえにくくなるメカニズムを教えてください。

杉浦 大きな原因は耳の経年劣化ですが、遺伝や環境にも左右されます。例えば大きな音を長時間聞く人は早い段階で難聴になることがあります。加齢性難聴では、小さな音が聞こえづらくなるだけでなく、音と音を聞き分ける力も落ちていきます。つまり、大声で話しかけても聞こえやすいとは限らないのです。最新のデジタル補聴器は、一人ひとりの聴力に合わせて周波数帯ごとにきめ細かな調整を行います。これが、集音器と大きく違うところです。

――難聴は認知症とも関わりがあるのでしょうか。

杉浦 難聴は脳にさまざまな影響を及ぼします。一つは情報量の低下です。目から入る刺激のほうが情報量は多いのですが、耳から入る情報の処理は、脳内で複数の経路を乗り換えるため、一度で脳のさまざまな部位を刺激します。また、聞き取りづらい状態は脳を疲れさせます。健聴者であれば「聞きながら考える」ことがすんなりできます。しかし難聴になると話を聞くことで精一杯で、受け答えを考えたり、内容を覚えることが難しくなります。これは、思考や記憶などの認知作業を行うための力を、すべて聞き取りに回してしまっているから。その結果、会話をするだけで脳全体が疲れるのです。

補聴器を使って認知機能を鍛える

――コミュニケーションが難しくなりそうです。

杉浦 そうですね。難聴のもたらす課題として社会的孤立やうつなども挙げられます。会話についていけなかったり、挨拶をしても返事がないように感じる機会が増えると、次第に外に出るのがおっくうになってしまいます。昔のように元気に活動する機会が減り、そうした生活が認知症を引き寄せる――。こうしたことも十分に考えられるでしょう。

――どのような対策が考えられるでしょうか。

杉浦 足腰の衰えであれば、適度な運動で鍛えることができます。脳も同じです。補聴器や人工内耳を活用して適切な音の情報を脳に届けてあげることで、脳の認知機能を鍛えられます。

――補聴器を使いこなすコツはありますか。

杉浦 毎日数時間は補聴器をつけ続けることで、補聴器の聞こえに脳が慣れていきます。最初は雑音が多く、補聴器の聞こえをうるさく感じるかもしれませんが、音が聞こえるたびに「換気扇の音」「車のエンジン音」と確認していけば、脳がそれらを不要と学習し、自然と環境音が気にならなくなっていきます。また、人の話し声を聞き取る練習も意識してほしいですね。

出典:「Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission」The Lancet Journal 2020.7.30より作図
出典:「Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission」The Lancet Journal 2020.7.30より作図

耳鳴りを生み出す一因は脳の過度な活性化

――耳鳴りに悩むケースでも補聴器は効果がありますか。

杉浦 加齢性難聴の3分の1から半数近い方は耳鳴りの症状もお持ちです。健聴者であっても、とても静かな空間に行くと「シーン」「ピーン」という音に気づきます。難聴になると、さらに耳鳴りに気づきやすくなるんです。また、音の情報が入ってこないと脳は何とかして音を聞き取ろうと過度に活性化してしまい、耳鳴りを聞いてしまうメカニズムもあります。そうなると余計に耳鳴りを意識してしまい、悪循環に陥ってしまいます。治療では音響療法が一般的です。補聴器を使い適度な音を入れることで、耳鳴りに気づきにくくしていきます。

――補聴器を購入する際に気を付ける点はありますか。

杉浦 補聴器を使うためには、一人ひとりの聞こえに合わせた丁寧なフィッティング(調整)が欠かせません。現在はコンピュータで、補聴器の出力を自動調整しているのですが、それだけでは不十分。耳栓やイヤモールドとの相性も聞こえに影響します。補聴器をつけてからも聞こえの検査をして、出力を微調整していくことが、より快適な聞こえを支えます。補聴器を購入する際は、検査・調整体制がしっかりと整っている専門店を選んでくださいね。