むしろ市当局の方が室氏を利用している?
前述の行政文書を読む限り、市の外郭団体であるサン社より、同社を監理・監督する立場にある神戸市当局の方がむしろ、積極的に室氏を利用しようとしているように見える。さらに、この公文書の発出者である〈担当課長〉は当時、さんプラザ区分所有者理事会の理事も兼ねており、前回(#1)で紹介した2015年1月27日の理事会にも出席していたのだ。
この日、サン社が理事会を招集した目的は、同社が室氏を理事たちに紹介し、さらには前述の、大倉産業名義となっているさんプラザ高層階の「土地」の持ち分を、有限会社MUROに譲渡することについて、理事たちの承認を得ることにあったのだ。が、議事録によると、理事長から意見を求められた、この〈担当課長〉は、次のように発言している。
「これまで進めてなかった部分が一転、進もうとしていますし、(中略)意見交換を密にして、どういうふうに進んでいれば良いか、理事会の中で決めていくというのはいいことかなと今は思っています」
自らが発出した文書で、前述のサン社による室氏への債権譲渡、さらには室氏による「清算人選任申立て」をアシストしておいて、だ。「これまで進めてなかった部分が一転、進もうとしています」とは、まさに“マッチポンプ”と言わざるを得ない。
これらのサン社や神戸市による、室氏への〈協力〉姿勢が奏功し、大津地裁は、室氏の求め通り14年5月、大津市内の弁護士を、破産した大倉産業の「清算人」に選任したのだ。
115億円相当の土地を「29万円」で取得
そして室氏は15年1月、大倉産業が所有していた、さんプラザビル高層階(約2213平方メートル)の土地を、「実際には建物が存在せず、実質的価値がない」、「42億円もの抵当権がついている」ことなどを理由に、清算人から僅か「29万円」で取得したのである。
国税庁が今年7月に発表した路線価で、さんプラザの建つ「三宮センター街」(三宮町1丁目)の地価は、コロナ禍の影響を受け、若干下がったものの、45年連続で兵庫県内トップの、1平方メートルあたり520万円。室氏の主張通り、建物自体は存在せず、40億円超の抵当権などがついているとはいえ、路線価を基にした単純計算で約115億円相当の土地が、「29万円」とは、やはり破格中の破格だろう。
こうして、さんプラザ6~10階部分の土地の所有権を、二束三文で手に入れた室氏は15年10月、この土地に抵当権を持つ「みずほ信託銀行」など複数の抵当権者を相手取り、それらの抵当権の抹消請求訴訟を次々と起こし、さらには元の所有者である大倉産業関係者を相手に、さんプラザ高層階の土地所有権の確認請求訴訟を提起したのだ。
これらの訴訟では一審、二審でいずれも室氏側が勝訴し、あとは最高裁の判断を待つのみとなっているのだが、判決が確定すれば、室氏はさんプラザビル全体の土地のうち33.63%を保有することになる。それを見越した室氏は今年5月、約140人にのぼる、さんプラザの低層階の区分所有者全員に送った書簡の中で、「大倉産業を排除」した後の「さんプラザ再整備構想」を次のように述べている。
〈再整備会社設立に必要な土地持分の50%の賛同者の確保の為、有力者との協議を整え具体的な設立準備へと移行し、9月には会社設立、1年以内に具体的な提案書の取纏め、2年以内に権利変換計画の策定を行いたいと考えます〉